『女神の加護を 受けし者は世界を救う』
第二章:逆行 エルティナ

①起:繰返し


目覚めると、そこは自分が普段使用しているベッドの上。
手は震え、全身を伝う汗。熱が奪われるような寒さ。
思い出せるのは、手を伸ばした先に居る婚約者。
自分に向ける婚約者の視線はいつもと同じ。
会場内は静まり返り、王子の吐き出された言葉だけが聞こえる。
私に告げられたのは婚約破棄。
覚悟していた。
あぁ、何をしても。何を言っても無駄なのだと。
そこで私の意識は途切れた。

「お嬢様!あぁ、目覚めたのですね。」
ベッドで身を起こした私を見つけ、慌てて走り去る侍女に問う時間もなく。
私はあの後、気を失ったのだろうか。
しかし何か違和感がある。
汗を拭おうと、手をこめかみに当てると髪の毛先が腕に触れた。
横髪が短い。血の気が引くのが自分でも分かる。
髪を切られてしまった?いつ。どうして。
理解できない状況に言い表せない恐怖。
ベッドから降り、鏡の前に走って向かう。
化粧台の鏡。目にしたのは幼い顔の私。
手を両頬に恐る恐る。指先が触れる感覚。
込み上げた感情に伴う叫び声が、部屋に響いた。

私の部屋に集まった家族、専属の医師、侍女を含めた家に従事する数名。
私を心配し、落ち着くようにと宥め。
お母様が取り乱す私を抱き寄せた。
温かい。まだ生きている。
救わなければ。そう思った。
「ごめんなさい。もう大丈夫です。」
ベッドに運ばれ、そこに横になり。
医師の質問に曖昧に答えた。
今がいつなのか。
触れる感覚はある。夢ではない。
それでもこの現実が受け入れられなくて。
もう一度、目覚めたらまた違う年齢の自分になっているのではないかと。
あの地獄のような場所に引き戻されるのではないかと。
不安と恐怖。

私の背は低く、顔は幼く、髪は短い。
お母様が生きている。
この状況は。きっと女神さまの加護に違いない。奇跡。
私に出来ることは何だろうか。
もう二度と繰り返さない。私の過ち。
流行り病の蔓延に、治療の魔法や薬が作られた。
そう聖女様の癒しによる結果、もうあの悲劇は繰り返さないのだと目にし。
今ならお母様を救える。犠牲を減らせる。


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