『女神の加護を 受けし者は世界を救う』

「あなたに感謝されるとか気持ち悪い。……これは、私の物よ。渡さないわ。」
「もらっても困る。使い方も分からない。あなたが聖女になればいいわ。……私は帰る。帰りたいのよ!」
私の本音。
その言葉にマリーの表情が曇る。
あぁ、彼女も帰りたいのだと感じた。
帰れないのかもしれない。
「……聖女はね、生贄なのよ。」
私は知らずに。『そこにいる』聖女の場所。生贄。
言葉が出ない。目の前が暗くなっていく。
足が震え、その場に座り込む。
自分が選んだ。けれど、ゲームでは主人公だよね?
ゲームをしていないから分からない。
「私は死ぬのかな。そうだよね、シナリオも進めず、重要なアイテムはあなたが手に入れていなければ世界が滅んでいた。」
涙が溢れ、頬を伝って地面に零れ落ちていく。
「泣かないでよ。ごめん、あなたは眠るだけで死なない。このゲームはヌルゲーだから、このアイテムを使えばクリアできるし。イジワル言っちゃったけど、あなたの事は嫌いじゃない。だって、逆ハー目当てじゃないってわかっていたから。あなたも帰りたいんでしょ、一緒に帰ろう。このゲームをクリアして。」
手を差し伸べられ。
私は涙を拭って、その手を取り立ちあがる。
「この後のイベントとか、教えて欲しい。」
「もう地図どおりよ。進路にある村や町でクエスト消化、洞窟でのアイテム収集。気楽な冒険ね。あなたも、せめて残りの日はクリアできるのだと安心して過ごせばいいわ。」
「ありがとう。話かかけてくれて。マリー……あなたの名前は?」
「私は伊井田 真理(いいだ まり)。転移者。ラノベ愛読者で魔法少女よ!」
「ふふ。私は真木野 理世(まきの りせ)。召喚された聖女。生き残れるなら、喜んで生贄になる。よろしくね。」
魔王討伐の為のアイテムと、必要な仲間を伴い。
私達は冒険を続ける。
ゲームのようにはいかない。
魔物や魔獣は生々しく、攻撃すればダメージを与え、滅んでいく姿。
時にそれを食し、アイテムを得て。
理解し合える同じ世界から来た友達もできて。
未来を楽観視する。
帰れるかは分からない。
けれど、女神の加護がある世界なら。
私の役目。それは生贄。生きて帰れる前提の。

そして時は来た。
マリーのゲーム知識に従い、順調にその時を冷静に受け止め。
神官ライオネルは、聖女として言う事はないと。私の後方での支援。
王子ユーリスと騎士のフリックが私の両隣に立ち、勇者を先頭に。
魔法使いマリーはその後方。私より前を歩いてくれる。その背を見つめ。途中で取得した杖に、魔王攻略のアイテムを組み込み。いつでも対応できる体制。

魔王城に到着し、戦闘は激しくなり。
最終決戦。魔王の登場。
「さぁ君たちは“今回”、この世界を救えるだろうか。」
マリーは杖を掲げ、アイテムを使用した。
私は魔法陣を広げ、聖女の力を全て注ぐ。
眠りにつくように力尽きるまで。
私はこの為に召喚された聖女だから。




to be continued
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