『女神の加護を 受けし者は世界を救う』
決意を新たにした翌日。
自分が婚約前で、病の蔓延後の10歳だと知る。
正確には、病は早期に発見され。
それに効く薬草を使用した料理が、人々を救ったのだと聞いた。
私が救わなくても、お母様は無事。救われた。
それならば。私は。
「お父様、私は聖女見習いに立候補します。」
婚約を回避する方法。
それは神殿に奉仕し、女神レイラリュシエンヌ様に使える事。
結婚が出来ないわけではない。
その道のりは厳しく、ある程度の魔力を持った者に資格があり、過去の私が拒否したもの。
聖女見習いになる事は、王子との婚約と同等の、この家にとっては名誉な特権。
学園の卒業間際までの知識があるなら、試験は簡単だろう。
王子は私ではない人を選ぶのだから。
聖女にはなれないのは分かっている。本物は召喚されて来るのだから。
この世界ではない場所から、家族と引き離され。
努力していたのを知っている。
ずっと耐え、周りも見ずに。この世界を救うために尽くしていた聖女様。
あなたに関わることはしない方が良いと思う。
けれど、何らかの支えになりたい。邪魔はしない。
未来は決まってやってくるから。
私の決意に、両親は神殿に私を連れて行ってくれた。
出迎えたのは、聖女様を支えていたライオネル様。歳の近い姿。
あぁ、やはり時は過去なのだと実感する。
王子ユーリスも側近の騎士フリックも、今は同じように幼いのだろうな。
初めて会ったユーリス。ずっと優しかった。
けれど、それは恋ではない。私の望んだ場所でもない。
お父様が望んだのは、更なる家の権力。お母様を喪った故。
未来は変わった。
お父様は私の錯乱状態を見たからか、今回の『聖女見習い』の件さえ押し留めようとした。
もしかすると婚約の話すらでないかもしれない。
そうかと言って何もせず、未来を変える努力をしている人達に任せてはいられない。
だってここは私の住んでいる世界だから。
「決意の見える目です。行きましょう、女神レイラリュシエンヌ様の像のある場所にご案内いたします。」
心配して私の後ろを歩くお父様とお母様。そしてお兄様。
あなたも近い将来、魔物に襲われる予定が消えた。
最悪な未来を回避した者。私以外に、未来を知る者がいる。
その努力をしている人が。
私には何が出来るだろうか。
礼拝堂の中。
中央に位置する天窓からの光を受け。
穏やかな微笑みを浮かべた女神レイラリュシエンヌ様の像。
その前に両膝をつき。手を組んで祈りを捧げる。
すると。一瞬、目を閉じているのに暗闇を感じ。閉じたまま恐怖に包まれる。
これは注いでいた光が遮断されたのだとすれば。
私は相応しくないのでは。
『あなたに加護を与えましょう』
頭に響いた声。
そして目を開けると、光は像から私の所まで伸びてきて。
閉ざされた部屋に、穏やかな風が吹いた。
この世界を私も救う。