『女神の加護を 受けし者は世界を救う』

②承:未来回避


お昼を知らせる鐘が鳴る。教会に集まる幼少の者達。
まだ学園に入っていない兄も一緒に、教会に向かう。
パンと飲み物を受け取り、整備された庭に座る。
芝生のような柔らかい草が絨毯のように心地よく。
その管理をしているのが孤児の子たち。
この国の脅威は予告された魔王だけ。
近隣諸国も存在するけれど、魔物や魔獣を協力して討伐しなければ存続できない環境だからか戦争もなく。
ある意味、地球より平和なのかもしれない。
女神レイラリュシエンヌ様の加護。
宗教など意識したことはないけれど、これほど平和であれば。
生まれて繰り返してきた崇拝行為も違和感などない。
食べ物に感謝を捧げ、家族の安寧を願う。
「ユニアミ、俺は食べ終わったら狩りに行くよ。ギルドの人が誘ってくれたんだ。」
私は咄嗟に兄の手を掴んだ。
行かせたくない。
「大丈夫、無理は絶対にしないと誓う。母さんとユニアミを置いては死ねない。」
私の手を握り返し、微笑みを向ける。
そして額に口づけた。
「お兄ちゃん?今のは何?」
ゲームで魔法使いレジェスが聖女にするのを何度か見た記憶。
それに意味があるのかと知りたくなった。
ただの好感度の表れかと思っていたから。
「無詠唱の加護だよ。数人しか使えない魔法だから、秘匿されているんだけどね。誰にも内緒だよ。いつか詳しく教えてあげるから。」

無詠唱の加護。
それが、兄が私に施した魔法の封印だったのだと。未来で知る。

食べ終わった兄は立ち上がり、私に手を振った。
私も手を伸ばして振る。
「いってらっしゃい。必ず帰って来てね。」
まるでフラグ。
けれど冒険者にまざって危険な場面に直面しても、兄に何かあることはなかった。
だってゲームのシナリオで、死ぬのが決まった未来があったから。

昼からはある程度の年齢に分かれて、歴史の簡略な物語を読み聞かせ。
文字の書き方。計算の仕方。大工仕事。裁縫作業。年齢に合わせた教育。
この国を支える人材作り。適材適所。
将来、困らないような教育が施され。
ヌルゲーだと思った世界は、意外な秩序で成り立っていた。
この世界でずっと平和に暮らしたい。
何か貢献できるのであれば。

「ユニアミ、何か質問ですか?」
出会ったのは、同年代の神官見習いのライオネル様。
あぁ、まだ疫病の流行る前だ。
疫病は、ライオネル様が最年少で神官になった後の事。
「家にはない薬草の本を読みたいのです。」
この出会いも女神レイラリュシエンヌ様の加護に違いない。
見つからない薬草を探すには、神殿の中にある……
そうだ、あのアイテムも手に入れておかなければ。


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