社長令嬢の私が恋したのは、清掃員でした
 エレベーターホール。

 そこに、秘書の澪が待っていた。

  「……一ノ瀬さん?」

 ラフな服装を見て、思わず言葉を失う。

  「大丈夫ですか。
   ここ、日本でも最高級の
   フレンチレストランですよ」

  「そうなんですか?」

 まったく気にしていない様子。

  「この服装では……
   ドレスコードが……」

 澪は、はっきりと落胆した。
  「じゃあ、
   そこでネクタイでも買います」

 一ノ瀬は、さらりと言う。

  「それだけ?」

  「十分でしょう」

 諦めたように、澪は小さく息を吐いた。

 数分後。
 軽くネクタイを締めただけの一ノ瀬が、
 堂々とレストランの入口に立つ。

 その瞬間。
 支配人が、はっとして足を止めた。

 そして――

  「……いらっしゃいませ」

 深々と、頭を下げる。
 (……え?)

 澪の胸に、強い違和感が走る。

  「何で……?」
< 11 / 41 >

この作品をシェア

pagetop