社長令嬢の私が恋したのは、清掃員でした
 レストランの中。
 友梨は、その光景を目にした。

 入口で、
 支配人が異様なほど丁寧に頭を下げている。
 (……今の、何?)

 父と上条も、その様子を見ていた。

  「はは」

 勝が、鼻で笑う。

  「ずいぶん、丁寧な迎えだな」

  「清掃員にも、最近は優しいんですね」

 上条も、皮肉を込めて笑った。

 その視線の先に――
 ゆっくりと歩いてくる、一ノ瀬の姿があった。

 友梨の胸が、ぎゅっと締め付けられる。
 (来た……)

 知らないはずの世界。

 似合わないはずの場所。

 なのに。
 なぜか彼は、
 この空間に“溶け込んで”見えた。
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