社長令嬢の私が恋したのは、清掃員でした
 翌日。
 一ノ瀬の社長室に、
 四人が集まっていた。

 一ノ瀬。
 友梨。
 マサト。
 澪。

 「……これからも」

 一ノ瀬が、
 いつもより柔らかい声で言う。

 「よろしく頼む」

 「こちらこそ、よろしくお願いします」

 その瞬間。
 ——ふぁ。
 一ノ瀬が、
 思わずあくびを噛み殺す。

 ……ふぁ。
 友梨も。

 ……ふぁ。
 マサトも。

 ……ふぁ。
 最後に、澪。

 四人が、
 一斉に固まる。

 そして、
 顔を見合わせた。

 一拍。

 「……まさか」

 一ノ瀬が、
 ゆっくりマサトを見る。

 「お前たち……?」

 澪は、
 何も言わずに、
 マサトの腕にぎゅっと抱きついた。

 満面の笑み。
 マサトは、
 珍しく、
 頭を掻く。

 「……まあ」
 「そういうことです」

 「えっ……!」

 友梨が目を丸くする。

 澪は、
 くすっと笑って言った。

 「おめでとうございます。
  ……お互いに」

 一瞬の沈黙。
 そして――

 「……ははは」

 最初に笑ったのは、
 一ノ瀬だった。

 「参ったな」

 「でも」

 友梨も、
 一ノ瀬の腕にしがみつく。

 「悪くない、ですよね」

 マサトも、
 小さく息を吐いて笑う。

 澪は、
 その様子を見て、
 満足そうに目を細めた。

 社長室に、
 久しぶりに、
 穏やかな笑い声が響く。

 それは、
 戦いの終わりを告げる音であり、
 新しい日常の始まりだった。

 それぞれが、
 選んだ場所で、
 選んだ相手と。
 
 ——物語は、
 静かに、
 幸せのほうへ着地する。
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