社長令嬢の私が恋したのは、清掃員でした
同じ頃。
都内のホテルのラウンジで、
マサトと澪は、
静かにグラスを傾けていた。
「……お疲れさまでした」
澪が言うと、
マサトは短く頷く。
「こちらこそ」
気づけば、距離は、
いつの間にか近くなっていた。
自然に、
澪はマサトの胸に身体を預ける。
分厚い胸板。
逃げ場のない安心感。
「……ずるいですね」
澪が、小さく笑う。
マサトは、
何も言わずに、そっと腕を回した。
その夜。
澪は、
自分が“崩れる側”になるとは、
思っていなかった。
抱き寄せられた瞬間、
呼吸が、ひとつ遅れる。
逃げ場を塞ぐ太い腕。
揺るがない体温。
抵抗するために残していたはずの距離が、
一気に消えた。
「……っ」
声を出そうとして、喉が震える。
強い。
乱暴ではない。
澪がどう反応するかを、
すべて把握した上で、
逃がさない強さだった。
触れられるたび、思考が、
一枚ずつ剥がれていく。
冷静さ。
判断。
“秘書としての自分”。
「……待って」
そう言ったはずなのに、
身体は、逆に近づいていた。
(……なに、してるの)
抗うつもりで伸ばした手が、
いつの間にか、
ぎゅっと、しがみついている。
それに気づいた瞬間、
胸の奥が、ぞくりと熱を帯びた。
(もっと、——欲しい)
その感情を、初めて、
否定できなかった。
快楽は、
甘いものだと思っていた。
でもこれは、押さえ込まれ、
引きずり込まれ、
それでも離れたくなくなる感覚。
強さに、溺れる。
少し緩んだかと思えば、また深く、
また激しく、意識が溶ける。
容赦なく、吐息が漏れる。
「……っ」
息が乱れ、視界が滲み、
何度も、意識が遠のく。
(……ああ)
こんなふうに、何も考えず、
ただ、
感じている自分を——
澪は、初めて、許してしまった。
「……っい」
価値観が、静かに、
音を立てて裏返る。
奥深く感じる、その強さに
もう、抗えない。
(すごい……い)
容赦なく、激しく吐息が漏れる。
「……いっ、……くっ」
深く、深く、意識が溶けていった。
それは、甘い夜ではなく、
深く、抗えない夜だった。
都内のホテルのラウンジで、
マサトと澪は、
静かにグラスを傾けていた。
「……お疲れさまでした」
澪が言うと、
マサトは短く頷く。
「こちらこそ」
気づけば、距離は、
いつの間にか近くなっていた。
自然に、
澪はマサトの胸に身体を預ける。
分厚い胸板。
逃げ場のない安心感。
「……ずるいですね」
澪が、小さく笑う。
マサトは、
何も言わずに、そっと腕を回した。
その夜。
澪は、
自分が“崩れる側”になるとは、
思っていなかった。
抱き寄せられた瞬間、
呼吸が、ひとつ遅れる。
逃げ場を塞ぐ太い腕。
揺るがない体温。
抵抗するために残していたはずの距離が、
一気に消えた。
「……っ」
声を出そうとして、喉が震える。
強い。
乱暴ではない。
澪がどう反応するかを、
すべて把握した上で、
逃がさない強さだった。
触れられるたび、思考が、
一枚ずつ剥がれていく。
冷静さ。
判断。
“秘書としての自分”。
「……待って」
そう言ったはずなのに、
身体は、逆に近づいていた。
(……なに、してるの)
抗うつもりで伸ばした手が、
いつの間にか、
ぎゅっと、しがみついている。
それに気づいた瞬間、
胸の奥が、ぞくりと熱を帯びた。
(もっと、——欲しい)
その感情を、初めて、
否定できなかった。
快楽は、
甘いものだと思っていた。
でもこれは、押さえ込まれ、
引きずり込まれ、
それでも離れたくなくなる感覚。
強さに、溺れる。
少し緩んだかと思えば、また深く、
また激しく、意識が溶ける。
容赦なく、吐息が漏れる。
「……っ」
息が乱れ、視界が滲み、
何度も、意識が遠のく。
(……ああ)
こんなふうに、何も考えず、
ただ、
感じている自分を——
澪は、初めて、許してしまった。
「……っい」
価値観が、静かに、
音を立てて裏返る。
奥深く感じる、その強さに
もう、抗えない。
(すごい……い)
容赦なく、激しく吐息が漏れる。
「……いっ、……くっ」
深く、深く、意識が溶けていった。
それは、甘い夜ではなく、
深く、抗えない夜だった。