「暁月さんに絶対服従 ~隠れ家カフェの常連日記~」
どんな格好でなのか、その答えはなかったが。
特に追求することもなく、環奈たちは牛丼屋から歩いて帰る。
「そういえば、夜やってるあの海外物のミステリードラマ。
あれ、面白いですよ。
見てると寝ちゃうんですけど」
「寝てしまうのなら、面白くないんじゃないのか?」
そう言いながらも、はは、とちょっと笑う滝本の横顔を見て環奈は思う。
こんな風に笑ってる課長と並んで夜道を歩くだなんて、入社したときには想像もしなかったなー。
すると、そこで、いきなり滝本が振り返り、
「どうした、惚れたのか」
と訊いてくる。
「そ、そんな簡単に好きになったりはしませんよ」
「……お高いな。
高嶺の花か」
そんな蔑むような目で見て言われても……。
「ともかく、今、俺が熱烈に告白してしまったみたいになってるから、早く気持ちに応えて欲しい」
無茶を言わないでください。
「偽装結婚も決まってるのに、俺だけお前を好きだとかおかしいじゃないかっ」
と滝本は子どものように言い張る。
酔っているのですか、課長。
……まあ、どっちでもいいですけど。
あんまり可愛いところは見せないでくださいね。
恋に落ちると困るので――。
何故、困るのかは自分でもわからないのだが。
いや、まあ、ちょっとその、困るので……、
と自分を見つめる滝本の視線から逃げるように早足に家に帰ったあとで、
「はー、やっぱり、家は落ち着きますね」
と環奈は玄関で笑った。