婚活嫌いのパイロットは約束妻に恋をする
「これはどう?」


彼に勧められる商品すべてが素敵で、宝飾品に詳しくない私は目移りしてしまう。

いくつかの店舗をまわり、最終的にお互いの誕生石を施したシンプルなデザインの指輪を選択した。

ずいぶん高価な品に緊張してしまう。


「内側にお名前を刻まれますか?」


親切な店員に琉生さんが即座に答えた。


「はい、妻と私のイニシャルと今日の日付を。大切な日なので」
 

妻、という響きに鼓動が一際大きな音を立てた。

さっきからずっと心が落ち着かない。
 
温かな人柄、思いやりに満ちた発言も優しい仕草も短い時間ながら少しずつ知ってきた。

だけど触れる指先の高い体温や真っ直ぐな眼差し、低く心地よい声にはいまだに慣れない。
 
真摯に仕事に向き合う姿勢、私を包み込むように安心させてくれる態度もなにもかもが目に、心に焼き付いて離れなくなる。
 
もう少し近づきたいと願うのに、反応が怖くて踏み出せない。

彼の言葉はいつも嬉しいのに、時々胸が詰まりそうになる。
 
この気持ちの正体に気づきたくない、でももうきっと誤魔化せない。
 
おめでとうございますと告げ、手続きのため離れた店員の背中を目で追う。

少しでも冷静になれたらいいのに、効果はまったくない。
 

ああ……好きになってしまった、この人を。



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