婚活嫌いのパイロットは約束妻に恋をする
『頼りにならない? 私では琉生さんの仕事は理解できない? 理想とは違った、間違えたって後悔している?』


『だから、なにも話してくれないの? 現実を受け止める覚悟はできているから、隠さないで教えて』
 

頭の中に蕗の声が響く。
 
なぜ江口さんの名前が出るのかわからない。

江口さんとは業務上の関わりはあるが、それだけだ。

彼女に好意を寄せられ、彼女の両親からうちの両親に縁談の打診があったのは事実だが、すでに断わっている。

江口さんには同僚としての感情しかない。
 
俺が愛しているのは蕗だ。
 
蕗とともに暮らすようになって、家はこんなにも温かくて心地よいものだと知った。

毎日彼女を抱きしめ温もりを感じて眠りたいと切に願う。

離れて眠る夜はいつも蕗を想って目を閉じる。

帰りを待っていてくれる人がいること、その人への土産を選ぶ時間はなにより幸せだと初めて知った。

蕗は俺にたくさんの幸せを贈ってくれている。
 
理想の女性像など元からない。

蕗だからこそ愛しいし、彼女のすべてを守りたい。

これまで苦しみに気づかなかった自分の不甲斐なさにイラ立つ。

全力で守ると誓っておきながら結局傷つけている俺は最低だ。

なにがあっても失いたくない、手放せない、たったひとりのかけがえのない女性。

蕗がいてくれるから俺は前に進める。

蕗のいない生活は考えられない。

どうすれば俺の気持ちのすべてが伝えられるだろう。

グッと拳を強く握りしめ、自分のなすべき対応について考えを巡らせた。


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