婚活嫌いのパイロットは約束妻に恋をする
その後、航空交通管制から指示された滑走路に向かって降下を開始する。
 
頭の片隅に蕗の笑顔と俺の名を穏やかに呼ぶ声が響いた気がした。

その瞬間、この機体に乗る人々をそれぞれの大事な人へ送り届けなければと思い、緊急事態で焦りかけていた頭が冷え、冷静さを取り戻す。

俺との結婚を、今は心から受け入れてくれた大切なたったひとりの人。

今もまだ時折なにかが引っかかるのか、考え込んでいるようなときがある。

真面目な彼女は自分が俺の足かせになるのではと長い間悩んでいた。

蕗の存在は俺にとって宝物以外のなにものでもないのに。

気にならないと言えば嘘になるけれど、自身が納得して打ち明けてくれるのを急かさず待とうと決めた。

俺の気持ちは揺るがないしこれまでどおりに彼女に寄り添い、想いを伝え続けたい。
 
焦らず慌てず、と自分に言い聞かせいつもどおりの手順を心がける。

無事に着陸し、リバーサーとブレーキを使い、機体が減速していく。

駐機後すぐに、救急隊が入ってきて大野キャプテンの様子を確認し、運び出していく。

俺はキャプテンの状態などについてチーフ客室乗務員たちとともに説明をした。

大野キャプテンが救急車に乗せられ病院へ搬送されていくのを目にした途端、まだ完全に安心はできないが無事に着陸できたことに大きな息を吐いた。
< 172 / 185 >

この作品をシェア

pagetop