婚活嫌いのパイロットは約束妻に恋をする
「……最近では電話が鳴るたびに、姉からかと思って憂うつになるの。色々考えすぎて夢に見るくらいで、この際、姉の言うようにお店を移転するか閉店したほうがいいのかしらね」


母の漏らした弱音に返す言葉が見つからない。

このままひかりさんの催促がエスカレートして母が押し切られたり、万が一瑛斗が結婚したらどうすればいいのだろう。

やはり私たち姉妹の結婚以外に、解決策はないのだろうか。

胸の中に不安が押し寄せる。

タイミングよく母が客に呼ばれ、小さく息を吐いた。

洗い物を片付けながら店内に目を向ける。

すると、テーブル席にいる二十代前半くらいの女性客ふたりが、興奮したようにカウンター席を見つめているのに気がついた。

隣に座る友人を撮影する振りをしながら、自身のスマートフォンをカウンター席に向けている。

何度も似た動作を繰り返してはクスクス笑って、ささやき合い、スマートフォンを操作する様子に嫌な予感がした。

さりげなく水を給仕しながら女性客たちに近づいて、聞き耳を立てた。


「あの人、向くんだよね! やっと会えた! あっ、今、上手く撮れたのに消しちゃった。もう一回撮影して投稿しよう。絶対注目されるはず」


「わかった、じゃあ次は私がこっちに座るから撮って」


彼を撮影し、SNSに投稿しようとしているようだった。
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