婚活嫌いのパイロットは約束妻に恋をする
「うちの母親に店を譲ること」


相変わらずの綺麗な笑顔で、瑛斗は残酷な事柄を爽やかに口にする。


「あそこは私の実家だし、カフェは母の生きがいで父との思い出の場所なの。だから手放すのは無理よ」


「気持ちはわかるけど、遺産はうちの母親にだって権利があるし、こっちも事情がある。叔母さんのカフェなら別の場所で新たに始めればいいだろ。物件探しも協力するって何度も言っただろ」


「でも常連さんだっているし、そんな簡単な話じゃないから」


必死に食い下がる私を、瑛斗は片眉を上げて余裕の表情で見つめてくる。


「母はひかりさんにほかの遺産を全部譲るって代替案を出したでしょ」


「うちの母親はお前たちがそっちを受け取ればいいって言ったらしいが? むしろその資金を使って新規開店したほうがいい。店も住居も老朽化してるだろ」


淡々と理にかなった説明をされて、即座に言い返せない。


「……ひかりさんはどうしてContrailをほしがるの?」


ずっと考えていた疑問をぶつける。


「元々あの立地を気に入って店舗をオープンさせたかったんだよ。でも叔母さんがどうしてもって引かないうえ、ばあちゃんにも頼み込まれて渋々譲ったらしい。だから今度こそ譲ってほしい、自分にはその権利があるって延々聞かされている」


母親を思い出したのか、うんざりした様子で瑛斗が口にする。

そういったやりとりが過去にあったなら、ひかりさんが頑なに主張するのもわかる。
< 38 / 95 >

この作品をシェア

pagetop