婚活嫌いのパイロットは約束妻に恋をする
「蕗、待て!」


叫ぶ従弟を無視して歩く。

搭乗口に到着し、できるだけ、グランドスタッフがいる場所近くの席に腰を下ろす。

しばらくしてやってきた瑛斗は私を見つけ、隣に腰掛けた。


「どうせ同じ便だろ。機内では話しにくいだろうから、羽田に着いたら待っていろ」


「話なんかない。結婚はしない、以上よ」


「……このまま帰らず、ここに力ずくで引き留めてほしいのか?」


緩く腕を掴まれてびくりと肩が跳ねる。

痛みがよみがえり、悔しさと怖れ、混乱で声を発せずにいたところ、搭乗開始のアナウンスが聞こえた。

瑛斗は優先搭乗らしく、苦々しそうに表情を歪め、私に念押しをして立ち上がり改札機を通っていった。

従弟の姿が見えなくなり、深く息を吐く。

力の入らない足でよろよろと立ち上がる。

同じ会社の人たちが働く場所で情けない姿をさらしたくない。

貼り付けた笑顔で改札機を通り、搭乗橋を歩く。

最近では落ち着いてきたはずの緊張がこみ上げ、指先が冷たくなっていく。

搭乗し、自分の席に向かう際、すでに座っている瑛斗を見かけ顔が強ばる。

席が離れているのは嬉しいが、到着時は確実に彼が先に降りるので逃げられない。

席に座りシートベルトを締めて、ドアクローズの案内を聞く。

気持ちを切り替えるため、自分のドアクローズ業務を思い出してみるけれど、まったく効果はなかった。
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