婚活嫌いのパイロットは約束妻に恋をする
「入って」


さらに促され、靴を脱いだ彼の後ろに続いて廊下を歩く。

三LDKだという室内はきちんと整理されている。

リビングに案内され、勧められるままファブリック素材の大きめのソファに腰を下ろす。

目の前の大きな窓からは綺麗な夜景が見えて、思わず感嘆の声が漏れた。


「タクシーに酔わなかったか? お茶を淹れるからつらかったら横になっていて」


「平気です、あの、お気遣いなく。すみません、勤務後のお疲れのところ……」


「俺が好きでやっていることだから」


柔らかく目を細めた向さんが、キッチンへと足を向ける。

しばらくして戻ってきた彼はセンターテーブルに湯気が立つふたつのマグカップを置いて、私の右隣に座った。


「早速だけどさっきの話の続きをしようか。君は明日も休みだったよな?」


確認されて首を縦に振る。

タクシーの中で私のシフトと瑛斗との事情について簡単に話していた。

ちなみに彼も明日は休みらしい。


「部外者の俺が遺言とかご家族の事情を伺うのは申し訳ないが……」


「いいえ、必要な事柄なので。むしろ私のほうが巻き込んでしまって申し訳ないです」


「それは構わないって言ったはずだ」


優しく受け入れてくれる彼に、私は祖母の遺言と現状について改めて説明した。
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