婚活嫌いのパイロットは約束妻に恋をする
「私たちの間に、恋愛感情もないでしょう……」


わざわざ口にするのも恥ずかしいけれど、大事な事柄だ。

私は状況的に恋愛結婚は難しいだろうけれど、彼は違う。


「落ち着いて」


冷静な彼が、そっと膝の上で無意識に握りしめていた私の拳に指先で触れた。

びくりと大きく跳ねた鼓動は、そのまま速いリズムを刻み出す。


「俺は動画出演以来、やたらと注目され声をかけられるようになった。一方的に写真を撮られることも多くて正直困っていた。実家の両親に相談したところ、解決方法と称して嬉々として縁談を勧めてくるし、参っていた」


ちなみに広報にはグループ会社役員のご令嬢が勤務しており、上司はなんとか断わろうと骨折ってくれたが、以前から向さんの大ファンだったご令嬢のごり押しが強く、動画出演は仕方なかったそうだ。

彼の実家のご両親は親友の情報どおり、名家の大地主だそうで、土地管理を中心とした不動産業を営んでいるという。

いつまでも身を固めない長男にしびれをきらしているらしい。


「しかも会社からは評判にも関わるから、軽率な振る舞いは慎むよう再三言われている」


憂いを帯びた表情は、どこか疲れているようにも見えた。


「君と結婚すれば両親の催促から解放されるし、俺のメリットは十分にある。俺は君の正直なところが気に入っているし、恋愛感情はなくてもうまくやっていけるはずだ。なにより君を従弟から守れる」


真摯な口調と視線に胸の奥が疼く。
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