婚活嫌いのパイロットは約束妻に恋をする
これまで飛行機以外に興味をもつものも執着するものもなかった俺にとって初めての感情に心がかき乱される。

心音がうるさいくらいの音を立てる。

突然の求婚に戸惑う彼女を安心させるように、俺のメリットを言い訳のように口にしたが、そんなものは正直どうでもよかった。

別人だと思っていた思い出の人は、同じひとりの女性だった。

驚きと喜びに心が追いつかない。

俺は彼女に偶然何度も出会い、救われていた。

蕗を離したくない。

甘やかして安心させたい。

笑わせたい。

なにより助けてもらった恩を返したい。

唐突すぎる大きな想いの波を、混乱と戸惑いの中で必死に押しとどめる。

俺たちはまだお互いを知らなさすぎる。

そんな状況で想いをぶつけても信用されないし怖がらせるだけだ。

俺自身、想いを自覚したばかりだ。

なにより今の彼女は立て続けに起こった出来事に憔悴している。

そもそも再会時の俺の印象は最悪だ。

挽回するのは当然だが、今の俺を知ってもらい、距離を縮めたい。

そして、俺も思い出の中の蕗ではなく、今の現実の彼女をきちんと見て、知りたい。

けれど俺には、今の蕗を知れば知るほど惹かれるだろうと根拠のない自信がある。

蕗を信じているし、嘘が下手で苦手だともう十分知っているから。

本音を言えば、色々考えず今すぐ三年前の話がしたい。

感謝を伝え、あれからどう過ごしてきたのかを知って近づきたい。

だが、実家のカフェの相続問題や従弟の件で悩む彼女に、これ以上負担をかけたくない。

一緒に過ごす時間の中で、蕗が落ち着いた頃合いを見計らって、打ち明けたい。


これからは俺が蕗を守る。


俺が最初で最後の恋をした人だから。

















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