婚活嫌いのパイロットは約束妻に恋をする
「いえ……私は大丈夫なのですが、その、設定に無理があるんじゃ……」


社内はもちろん、誰もが憧れる男性がいくら昔馴染みとはいえ、熱烈かつ急速に私を求めてくれるなんて、現実味がなさすぎないだろうか。


「事実だから構わない」


きっぱり言い切られ、心が振り子のようにぐらぐら揺れる。


「そろそろ出かける準備をしようか。ほかの事柄についてはおいおい考えよう」


彼の意見に首を縦に振った後、コーヒーカップを手に立ち上がる。

朝食準備をしてもらったのだし、片付けを引受けると告げた。

ところがあっさり断わられ、カップを取り上げられた。


「出かける準備ができたら声をかけて」


優しくキッチンから追い出され、小さく息を吐く。

至れり尽くせりの対応に申し訳なさがこみ上げる。

どう考えても私のほうが彼に負担をかけている。

それなのに、嫌な顔もせず、迷惑がる素振りひとつしない。

社内では冷たい美形ともっぱら噂されているけれど、この人の本質はきっととても温かで思いやり深いと思う。

琉生さんの厚意に甘えてばかりではなく、たとえわずかでも役に立てるようにがんばらなくてはと改めて心に誓い、実家に向かう支度を始めた。

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