役目は終えましたので、好きにしてもいいですよね?〜地味才女の楽しい改革劇〜
 コモンズ公爵は表では人当たりの良い領主だが、その裏で隣国に粗悪品のポーションを売り込んだり、高額な税の徴収を繰り返したりして己の懐に入れていた悪徳貴族だったのだ。
 金の使い道は今までの義父の酒代、義母のドレスや装飾品の宝石類、マルコムがジェシカに使ったデートやプレゼントといった交際費。帳簿から散らばった書類はすべて、事細かく精査された請求書とその内訳である。

「メリッサさん! 公爵家の妻がこんなことをしていいと思っているの!?」
「お義母様、これは公爵家の悪い膿を出すために大切なことですよ。――それにしてもここまで散財癖が酷いとは、もはや改善の余地はありませんね。私を公爵家に嫁がせたのも、自分たちの借金を返済させようという魂胆だったのでしょう?」

 メリッサがいくら家に金を納めてもなかったことにされていたのは、実家の借金に回されたのではなく、義家族それぞれの返済に充てられていたのなら辻褄が合う。

(私が反論も追求もしてこなかったから、気付いていないとでも思ったのでしょうけど)

 ジェシカとの関係を公にしたのも、メリッサは何も言ってこないと高を括ったことが要因だろう。
 メリッサは、この家に足を踏み入れるずっと前から気付いていた。
 この家族は完全に自分を舐め切っているのだと。

「メリッサ……貴様の実力は聞いていたが、まさかこれほどまでとは……」
「これほどまで? まさか、これですべてだと思っていらっしゃるのであれば、随分お気楽な思考ですわね」

 叩きつけられた書類をトントン、と指ではじくメリッサを前にして、公爵は冷や汗が伝う。
 それと同時に、メリッサを結婚という形で囲い込んだのは、彼女の才能を買ってのことだったことを思い出した。
 優秀な両親の隠れていたこともあって今まで目立ちはしなかったが、メリッサは国内でも高い魔力と複数の魔法を扱える稀有な存在なのだ。貴族の間では有名な話で、その実力は男爵家が商会に卸す高品質なポーションをみれば一目瞭然。本来であれば、メリッサの存在価値は高く見なければならない。
 義両親だけでなく、マルコムも悔しそうな表情を浮かべて黙る中、涙を浮かべたジェシカがメリッサに食いついた。

「酷いわ、メリッサさん! 私たちの愛を祝福しないどころか公爵家を陥れようだなんて、なんて悪女なの!」
「悪女……そうね、あなたたちにとって私は悪女と思われても仕方がないかもしれません」

 困ったように目を伏せたメリッサに、ジェシカは一瞬明るい笑みを浮かべる。

「そうでしょう! 男爵家の人間がたてつくなんて――」
「でも、不正に不正を重ねた公爵家の未来が、本当に輝かしいものになるかしら?」
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