役目は終えましたので、好きにしてもいいですよね?〜地味才女の楽しい改革劇〜
――半年前に嫁いだ頃、公爵から手渡された借用書にメリッサが違和感を覚えたのは、すぐのことだった。
(……商会が使っている用紙、こんなにざらついた紙質だったかしら?)
この国の商会では取引の際、魔法を含むどんな手法でも内容を偽造されないよう、指定された紙を使用することが定められている。いくら署名を偽造された書類が出てこようと、商会の者であれば込められた魔法だけでなく、紙のざらつき一つで気付けるように研修まで組まれているほどだ。
幼い頃から両親の仕事にくっついて回り、いろんな商会とやり取りをしてきたメリッサにとって紙質の区別など容易なこと。しかし、母が亡くなった直後で落ち着く間もなく公爵が押しかけてきたこともあって、冷静な判断ができない状況下にあったことを、メリッサは今になって悔やんだ。
しかし、この違和感は両親の借金の真相に辿り着く唯一の手掛かりだ。気のせいなどと、簡単に片づけてはならない。
(もしこれが嘘だったなら……倍にしてお返してあげないとね)
メリッサはすぐに男爵家の頃からの使用人を仲介し、様々な伝手を頼って提示された借用書を念入りに調べた。
そして、借用書に記入されたインクの渇き具合から、記載されている借りた日よりも後に書き加えられたものであることがわかったのだった。
「これらは王家御用達の紙やインクといった文具を取り扱う商会、筆跡鑑定や魔術に詳しい知人の文官に協力いただき、この借用書がいつ書かれたものなのか、本来であれば誰が負うべき借金だったのか――すべて明らかにしてまとめたものです。さらに両家の経営状況を徹底的に調べ上げました。その結果、クレイトン家に借金はなく、借用書は偽造されたものであると断言できます。……ああ、今さら証拠隠滅を図っても無駄ですよ。先程の件と合わせて王家へ報告済みですし、近日中に監査を入れるとも伺っています」
並べられた書類を確認し、すべて本物であることを叩きつけられたマルコムは、書類をぐしゃりと握り潰す公爵を怪訝そうに見た。
「父上……母上も、こんなに手の込んだことまでして、どうして……?」
「…………」
「さて、偽りではありましたが完済しましたし、約束通り好きにさせていただきます」
メリッサは用意していた離縁状をマルコムに差し出す。
「私と離縁してくださいませ。手切れ金として、そちらは差し上げますわ」