役目は終えましたので、好きにしてもいいですよね?〜地味才女の楽しい改革劇〜
「メリッサ、君は誰に向かって!」
「……もういい、マルコム。署名しろ」

 公爵は悔しそうに睨みつけながら、マルコムを促した。

「父上、彼女は男爵家の中でも下級貴族です。公爵家の僕たちが下級ごときに従うなんて!」
「金さえ手に入ればこの女は用済みだ! ……ジェシカ嬢と結婚したいのだろう、これは好機だぞ」

 ジェシカとの結婚――その言葉に、マルコムは心に広がっていた曇り空が一気に晴れ渡っていくのを感じた。
 メリッサはいい女でも政略結婚で、ジェシカの魅力には到底かなわない。
 家の借金なんてどうでもいい。愛される者同士が結ばれる、そんな未来を掴めるというなら、マルコムは迷わず手を伸ばしたいと思う。

「わかりました……メリッサ、つまらない君とは離縁してやる。あとで泣きついてきても知らないからな!」

 言われた通りに署名すると、押し付けるようにメリッサに渡す。少しばかりシワの寄った離縁状を改めて確認し、ニッコリと笑みを浮かべた。

「確かにいただきました。……ああ、ちょうど迎えがきたようですのでこちらで失礼いたしますわ。それでは皆様、ごきげんよう」

 恭しくカーテシーをすると、大量の金貨と書類を置いたまま応接の間を出ていく。
 ひっつめ髪を崩し、うねった金髪を揺らしながら公爵家の門に行くと、一台の馬車が停まっていた。メリッサの姿が見えたのか、馬車の外で待機していた執事と侍女が駆け寄ってくる。

「メリッサ様、お迎えに上がりました」
「お嬢様……よくぞご無事で! お怪我はございませんか、お腹は空いてはいませんか? お嬢様が好きなジンジャークッキーをたくさんご用意いたしましたよ!」
「ふふっ、遠いところからありがとう。クロード、ジェナ。待たせてごめんなさいね」
「――どういうことだ、メリッサ!」

 執事たちとの再会にホッとしたのも束の間、後ろから公爵とマルコムが追いかけてきた。
 そして、視界に入った馬車の紋章を見て、驚愕した。二頭の鷲が互いの背を預けているように交差された紋章は、ヴィンセント辺境伯家――武力ではコモンズ公爵家とは雲泥の差がある貴族のものだった。
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