魔法乙女(マジカル☆メイデン) ~最果ての魔女と九尾の島~
第10話 ネコ科ヒョウ属
それはまさしく大型肉食獣の咆哮だった。
ほら、動物園で聞くじゃん? ライオンの吠え声。怖いよねぇ。
おかげで全員、ビクっとする。
「どこかで白虎さまが起きたのかも」
「かな?」
ドドッ、ドドッ、ドドッ、ドドッ、ドドッ、ドドッ、ドドッ!! バキャバキャバキャバキャァァァア!!
竹を大量に破壊しつつ近づいてくる音がする。
音に怖がったアヤちゃんが、あたしの腰にすがりつく。
「ルナ、あれ!!」
はるか前方の竹を派手に壊しつつ、半透明の何かが走ってくる。
段々とソレは実体化して真っ白な獣へと変化した。
真っ白な虎――白虎だ。
白虎は牙をむき出しにし、爪を全開に生やし、全身から強烈な殺意を放出しつつ飛びかかってきた。
ターゲットは……アヤちゃんだ!!
あまりにも怖かったのか、蛇に睨まれたカエルのように、アヤちゃんが固まる。
「ぅあぁぁぁぁぁぁああああああああああああああんんんんん!!!!!!!」
「何するんですか!!」
ガン泣きするアヤちゃんを抱えてジャンプしたあたしは、白虎さまに向けて叫んだ。
ルナはモコ太くんを抱えている。ナイス!
そのとき、頭の中に強烈な思念が飛び込んできた。
白虎さまだ。
『貴様らこそなんだ! オレは九尾を封じるためにこそこの地にいる。九尾の手下をかばうならただではおかんぞ!』
カっチぃぃぃぃぃン!
もう怒り心頭。妖怪だろうと何だろうと五歳の子どもだぞ! ふっざけんな!!
「あなたのやることはクウミの力を削ぐことでしょ! この子たちは関係ない! 手を出したら許さないから!!」
「クウミとのケリがつくまで、ほこらの前で黙って座っていなさい!!」
普段冷静な優等生タイプのルナが、あたしに負けず劣らず怒っている。
「アヤちゃん、ここでジっとしていてね。お姉ちゃんが絶対守ってあげるから」
「あぅあぅ、うん!」
左手でアヤちゃんを抱え、右手で竹につかまっていたあたしは、アヤちゃんを竹につかまらせた。
ルナがジャンプしてあたしと同じ竹につかまる。あたしのすぐ上だ。
すかさずモコ太くんがアヤちゃんのそばにくる。
あたしは、吠えながらグルグルと地面を歩く白虎さまの真正面に降り立つと、柏手を打った。
「法具顕現、光の剣!!」
左右のブレスレットがひときわまぶしい光を放ちつつ高速回転すると、右手に光る蛍光灯といった感じの剣が現れた。
わぉ、あたしってば白虎さまと正面切って戦う気? 当然! あの兄妹を守るためならね!
『成り立ての魔法乙女ごときが、我ら四聖獣に敵対するつもりか? ……わずかばかりの力を手に入れて思い上がったか!!』
ブォっ!!!!
あたしの顔や身体に、暴風をともなって凄まじい圧がかかる。
『退け!!』
「退かない!!」
戦力差はあきらかだけど、はいそうですかと退くわけにいかないじゃん!
あたしは迷わず白虎さまに光の剣を向けた。
『痛い目を見たいのか!』
「うっさい、だまれ! あの子たちに手出しをさせないと言った!!」
そんな、あたしと白虎さまがにらみ合っているところに、ルナが降りてきた。
一触即発状態のあたしと白虎さまは、互いから目を離さず、横目でちらりとルナを見る。
そんな緊迫感をルナが鼻で笑う。
「駄目よ、アサヒ。力に力で対抗するなんて愚の骨頂だわ。わたしならこうするわね」
ルナは右のこぶしをそっと前に差し出すと、ゆっくりと開いた。
手のひらの上に、光る玉が乗っている。
なんの変哲もないように見えるのに、なぜか目が離せなくなる。
それに、このそこはかとなく漂う甘い匂いはなに?
白虎さまも同じようで、というより、あたし以上に目をおっぴろげて光に魅入っている。
『フゥフゥフゥフゥ!』
白虎さまの様子があからさまに変だ。興奮してる?
その様子を見ていたルナは、ニコっと微笑むと言った。
「そら、飛んでけ!」
光の玉がルナの手から飛び出すと、ジグザクな動きをしつつ飛んだ。
白虎さまが目の色変えて追いかけていく。
『ウニャニャニャ! ニャニャニャニャニャニャニャニャ!!』
あっという間にその場からいなくなった白虎さまを呆然と眺めていたあたしは、小声でルナに尋ねた。
「あれ、なに?」
「適当に飛んでいく光の玉よ。ただし、マタタビの匂いが出るようにしたけどね」
「マタタビ? って、ネコの大好きな?」
「そ。虎はネコ科なの。あれでネコの仲間なのよ? 身体があんなに大きいのにね」
「……ありがと、ルナ。助かった」
ルナはあたしの方に振り返ると、ニヤっと笑った。
「幼なじみなめんな」
「へ?」
「あんたに足りないところがあればわたしが補う。逆も同じ。二人でならなんだって乗り越えられるわ。でしょ?」
「だね!」
そこへ、竹につかまって避難していたモコ太くんとアヤちゃんが降りてきた。
白虎さまがいなくなって安心したのだろう。
アヤちゃんが駆けてきてあたしに抱きつく。
「アサヒお姉ちゃん!!」
「アヤちゃん! 無事で良かった!」
「モコ太も無事ね?」
「おうよ!」
無事を確認し合ったあたしたちは、誰からともなく笑い出すと、そこから四人で大いに笑ったのでした。
◇◆◇◆◇
「アヤ、そろそろ帰ろう。あんまりお館さまを放っておくと、また色々言われそうだしな」
「あーい! アサヒお姉ちゃん、まったね!」
「はい、またね!」
「また会いましょう、モコ太くん」
「ルナ姉ちゃんも……また明日。できればお館さまがこのまましばらく寝込んでいてくれるといいんだけど」
「そうね。あんまり戦いたくないわね」
兄妹はあたしたちに何度も礼を言いつつ、仲良く手をつないで帰っていった。
その姿を見送りつつルナが口を開いた。
「良かったわね、アサヒ」
「なにが?」
「守りたかったんでしょう?」
「そうだね。あたしたちは魔法乙女。弱きを助けるためにいる。でしょ?」
「そうね。じゃ、わたしたちも帰りましょうか」
「ん!」
子供たちを救ったという誇りを胸にしたあたしたちは、意気揚々と山を下った。
のだが――。
山を下り、野っ原を踏破し、出入り口であるほこら前に辿りついたとき、あたしたちは足腰ガクガクでその場にへたりこんでしまったのでした。
◇◆◇◆◇
「あっはっはっは! クゥらしいわ。明日あなたたちが出発するまでに鎮痛の軟膏を調合しておくわ。それを塗れば、多少は痛みもやわらぐでしょ」
「……敵に塩を送るの?」
「まぁそのくらいはね。長い付き合いだし」
アンコちゃんが笑いながらあたしのコップに麦茶のおかわりを注いでくれた。
あたしは机の上のポテチをバリバリ噛み砕きながら尋ねてみた。
「それって、こっちのモノを持ち込めるってこと?」
「不思議ではないでしょう? あなたたち自身もあちらに生身で行ったことだし」
「そりゃそっか」
「でも、悪影響があるってことですか?」
「生身だとね。長く居続けるとあちらに同化して戻ってこられなくなるの。だからあなたたちは分身という手段を使っているわけだけれど」
「無生物で小物なら構わないのかな」
「……なにか持ち込む予定でもあるの?」
「「……」」
「……程々にね。さ、そろそろ時間よ。気をつけて帰りなさい」
耳を澄ますと、遠くで十七時の防災無線が流れている。
子どもは帰る時間だ。
「アサヒ、帰ろう。アンコさん、また明日」
「はい。気をつけて帰るのよ」
「またね、アンコちゃん」
「またね」
こうしてあたしたちの冒険二日目が、幕を閉じたのでした。
ほら、動物園で聞くじゃん? ライオンの吠え声。怖いよねぇ。
おかげで全員、ビクっとする。
「どこかで白虎さまが起きたのかも」
「かな?」
ドドッ、ドドッ、ドドッ、ドドッ、ドドッ、ドドッ、ドドッ!! バキャバキャバキャバキャァァァア!!
竹を大量に破壊しつつ近づいてくる音がする。
音に怖がったアヤちゃんが、あたしの腰にすがりつく。
「ルナ、あれ!!」
はるか前方の竹を派手に壊しつつ、半透明の何かが走ってくる。
段々とソレは実体化して真っ白な獣へと変化した。
真っ白な虎――白虎だ。
白虎は牙をむき出しにし、爪を全開に生やし、全身から強烈な殺意を放出しつつ飛びかかってきた。
ターゲットは……アヤちゃんだ!!
あまりにも怖かったのか、蛇に睨まれたカエルのように、アヤちゃんが固まる。
「ぅあぁぁぁぁぁぁああああああああああああああんんんんん!!!!!!!」
「何するんですか!!」
ガン泣きするアヤちゃんを抱えてジャンプしたあたしは、白虎さまに向けて叫んだ。
ルナはモコ太くんを抱えている。ナイス!
そのとき、頭の中に強烈な思念が飛び込んできた。
白虎さまだ。
『貴様らこそなんだ! オレは九尾を封じるためにこそこの地にいる。九尾の手下をかばうならただではおかんぞ!』
カっチぃぃぃぃぃン!
もう怒り心頭。妖怪だろうと何だろうと五歳の子どもだぞ! ふっざけんな!!
「あなたのやることはクウミの力を削ぐことでしょ! この子たちは関係ない! 手を出したら許さないから!!」
「クウミとのケリがつくまで、ほこらの前で黙って座っていなさい!!」
普段冷静な優等生タイプのルナが、あたしに負けず劣らず怒っている。
「アヤちゃん、ここでジっとしていてね。お姉ちゃんが絶対守ってあげるから」
「あぅあぅ、うん!」
左手でアヤちゃんを抱え、右手で竹につかまっていたあたしは、アヤちゃんを竹につかまらせた。
ルナがジャンプしてあたしと同じ竹につかまる。あたしのすぐ上だ。
すかさずモコ太くんがアヤちゃんのそばにくる。
あたしは、吠えながらグルグルと地面を歩く白虎さまの真正面に降り立つと、柏手を打った。
「法具顕現、光の剣!!」
左右のブレスレットがひときわまぶしい光を放ちつつ高速回転すると、右手に光る蛍光灯といった感じの剣が現れた。
わぉ、あたしってば白虎さまと正面切って戦う気? 当然! あの兄妹を守るためならね!
『成り立ての魔法乙女ごときが、我ら四聖獣に敵対するつもりか? ……わずかばかりの力を手に入れて思い上がったか!!』
ブォっ!!!!
あたしの顔や身体に、暴風をともなって凄まじい圧がかかる。
『退け!!』
「退かない!!」
戦力差はあきらかだけど、はいそうですかと退くわけにいかないじゃん!
あたしは迷わず白虎さまに光の剣を向けた。
『痛い目を見たいのか!』
「うっさい、だまれ! あの子たちに手出しをさせないと言った!!」
そんな、あたしと白虎さまがにらみ合っているところに、ルナが降りてきた。
一触即発状態のあたしと白虎さまは、互いから目を離さず、横目でちらりとルナを見る。
そんな緊迫感をルナが鼻で笑う。
「駄目よ、アサヒ。力に力で対抗するなんて愚の骨頂だわ。わたしならこうするわね」
ルナは右のこぶしをそっと前に差し出すと、ゆっくりと開いた。
手のひらの上に、光る玉が乗っている。
なんの変哲もないように見えるのに、なぜか目が離せなくなる。
それに、このそこはかとなく漂う甘い匂いはなに?
白虎さまも同じようで、というより、あたし以上に目をおっぴろげて光に魅入っている。
『フゥフゥフゥフゥ!』
白虎さまの様子があからさまに変だ。興奮してる?
その様子を見ていたルナは、ニコっと微笑むと言った。
「そら、飛んでけ!」
光の玉がルナの手から飛び出すと、ジグザクな動きをしつつ飛んだ。
白虎さまが目の色変えて追いかけていく。
『ウニャニャニャ! ニャニャニャニャニャニャニャニャ!!』
あっという間にその場からいなくなった白虎さまを呆然と眺めていたあたしは、小声でルナに尋ねた。
「あれ、なに?」
「適当に飛んでいく光の玉よ。ただし、マタタビの匂いが出るようにしたけどね」
「マタタビ? って、ネコの大好きな?」
「そ。虎はネコ科なの。あれでネコの仲間なのよ? 身体があんなに大きいのにね」
「……ありがと、ルナ。助かった」
ルナはあたしの方に振り返ると、ニヤっと笑った。
「幼なじみなめんな」
「へ?」
「あんたに足りないところがあればわたしが補う。逆も同じ。二人でならなんだって乗り越えられるわ。でしょ?」
「だね!」
そこへ、竹につかまって避難していたモコ太くんとアヤちゃんが降りてきた。
白虎さまがいなくなって安心したのだろう。
アヤちゃんが駆けてきてあたしに抱きつく。
「アサヒお姉ちゃん!!」
「アヤちゃん! 無事で良かった!」
「モコ太も無事ね?」
「おうよ!」
無事を確認し合ったあたしたちは、誰からともなく笑い出すと、そこから四人で大いに笑ったのでした。
◇◆◇◆◇
「アヤ、そろそろ帰ろう。あんまりお館さまを放っておくと、また色々言われそうだしな」
「あーい! アサヒお姉ちゃん、まったね!」
「はい、またね!」
「また会いましょう、モコ太くん」
「ルナ姉ちゃんも……また明日。できればお館さまがこのまましばらく寝込んでいてくれるといいんだけど」
「そうね。あんまり戦いたくないわね」
兄妹はあたしたちに何度も礼を言いつつ、仲良く手をつないで帰っていった。
その姿を見送りつつルナが口を開いた。
「良かったわね、アサヒ」
「なにが?」
「守りたかったんでしょう?」
「そうだね。あたしたちは魔法乙女。弱きを助けるためにいる。でしょ?」
「そうね。じゃ、わたしたちも帰りましょうか」
「ん!」
子供たちを救ったという誇りを胸にしたあたしたちは、意気揚々と山を下った。
のだが――。
山を下り、野っ原を踏破し、出入り口であるほこら前に辿りついたとき、あたしたちは足腰ガクガクでその場にへたりこんでしまったのでした。
◇◆◇◆◇
「あっはっはっは! クゥらしいわ。明日あなたたちが出発するまでに鎮痛の軟膏を調合しておくわ。それを塗れば、多少は痛みもやわらぐでしょ」
「……敵に塩を送るの?」
「まぁそのくらいはね。長い付き合いだし」
アンコちゃんが笑いながらあたしのコップに麦茶のおかわりを注いでくれた。
あたしは机の上のポテチをバリバリ噛み砕きながら尋ねてみた。
「それって、こっちのモノを持ち込めるってこと?」
「不思議ではないでしょう? あなたたち自身もあちらに生身で行ったことだし」
「そりゃそっか」
「でも、悪影響があるってことですか?」
「生身だとね。長く居続けるとあちらに同化して戻ってこられなくなるの。だからあなたたちは分身という手段を使っているわけだけれど」
「無生物で小物なら構わないのかな」
「……なにか持ち込む予定でもあるの?」
「「……」」
「……程々にね。さ、そろそろ時間よ。気をつけて帰りなさい」
耳を澄ますと、遠くで十七時の防災無線が流れている。
子どもは帰る時間だ。
「アサヒ、帰ろう。アンコさん、また明日」
「はい。気をつけて帰るのよ」
「またね、アンコちゃん」
「またね」
こうしてあたしたちの冒険二日目が、幕を閉じたのでした。