身代わり花嫁は無愛想なエリート外科医(超甘党)からの極甘溺愛を刻まれる
「伊豆口様。お時間でございます。どうぞこちらへ」
「は、はい……」

 紺色の着物をぴしっと着用した中年くらいの仲居さんの後ろを、震える足でついていく。ただでさえ履きなれない白い足袋を履いてるせいか、歩き方がぎこちない。
 廊下の突き当たりの扉が仲居さんによって静かに開かれると、目の前に現れたのはこじんまりとした畳敷きの個室だった。
 真ん中には漆塗りの長机が置かれ、湯のみが2つ並べられている。えぇと、下座はこっちだっけ? と確認しながら恐る恐る入室すると、扉がピシッと閉まる音がした。
 私ひとりだけになってしまった。正座して待っていればいいのか? 着物の裾を払いながら両膝を曲げると右膝からポキっと軽い音がして、脱力感に襲われる。

「ぎゃっ」

 バランスを崩した私の目の前には湯気が立ちのぼる湯のみが。まずい、絶対にこぼしちゃいけない。何とか右横へ身を捩った瞬間、扉が開く音がした。

「あ」

 ――終わった。横に寝っ転がっている状態を絶対見られてる。やらかした現実を直視したくなくて、まぶたを閉じる力が更に強くなった。

「もしかしてシュクレの詩織さんですか?」
「え?」

 今なんて言った? シュクレと聞こえたのだが。
 何が起きたのか確認すべく、恐怖に打ち震えながら瞼を開くと、視界に映る男性は見覚えのある人物だった。

 ――黒ずくめの人?
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