身代わり花嫁は無愛想なエリート外科医(超甘党)からの極甘溺愛を刻まれる
 紺色のジャケットとネクタイなスーツ姿に、黒いショートヘアはセットこそちゃんとしてるけど、もさもさ感は幾分残ったまま。そして体格と声は間違いなく黒ずくめの人と同じ。ぼそぼそとしゃべる感じだってほぼ同じだ。
 普段はマスクで隠れて見えない顔パーツは切れ長の黒い瞳にぱっちりとした二重、高い鼻とすっと真一文字に結ばれた口元からはクールさと上品さが合わさっているように見える。非の打ち所がない完璧なイケメンだ。だけどこの全体的な雰囲気も、どことなくあの人っぽい感覚がした。
 ……待てよ、と言う事はつまり、佑太さんは黒ずくめの人だった?

「詩織さん大丈夫ですか? 体調でも崩されました?」

 バランスを崩して倒れたなんてとてもじゃないけど言えない。でも体調不良だと嘘をつくのもどうなのか。声にならない声を出すのが精いっぱいだ。

「大丈夫なら、このまま続けますけど……」
「大丈夫です! お、お気になさらず!」
「ならよかった」

 ほんの少しだけ目尻を緩くさせている彼の顔を見て、こちらも硬くなっていた緊張感がほどけていくのがわかる。部屋の扉がすっと閉じられ、部屋にいるのは私と彼だけになった。
 上座に正座しながらポケットから水色のタオルハンカチを取り出し、ぽんぽんと汗をぬぐう彼の姿は、御曹司らしく品に満ち溢れている。その間に私も体勢を立て直して、居住まいを正した。

「自己紹介がまだでしたね。私が翠佑太と申します」

 口数の少なさそうなクールさは変わらない。むしろ増したような気さえもする。

「は、はじめまして……私は伊豆口詩織と申します。美咲の妹に当たります。えっと、それで、あなたは……」
「よくシュクレに来ている者です。いつもは目立たないように地味な格好で、黒い眼鏡とかマスクとかつけてますけど」

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