極甘CEOと交際0日の仮初結婚 ~一途な彼の、初恋妻になりました~
千秋くんが、カフェ本社のマネージャーに連絡を取ってくれた。平田さんには然るべき対応を取ると、本社は約束してくれた。
でも――もうこのお店じゃ働けない。
千秋くんが、ロッカーに置いていた私のバッグを回収してきてくれた。財布の中身とアパートの鍵だけを回収して、他はもう捨ててしまおうと思った。
平田さんが触れたものかもしれない。だから、一刻も早く手離したくてゴミ箱を探していると、千秋くんが私の手を取った。
そうされて初めて、自分の手がふるえていることに気づいた。
「紗夜香さん」
丁寧な声音が、私を案じる。
私からバッグを取り上げた彼は、
「いったん、落ち着ける場所に行きましょう」
と、私を促す。
千秋くんの靴音を追うようにして、エントランスを抜けてビルを出た。
彼が選んだのは、並木が美しく整備された近くの公園だった。木漏れ日が揺らめくベンチに、ふたりで座った。常緑樹の葉擦れの音が、風と溶け合い、流れてゆく。
「もしかしたら、自宅に帰るのは危ないかもしれません」
慎重な声音で、千秋くんが言った。私は俯いたまま、弱く頷いた。
平田さんが私の荷物を漁っていたのなら、いろいろな個人情報を知られているかもしれない。
そうじゃなくても、副店長の立場なら履歴書を始めとした情報にアクセスできる。
でも、預金残高も底をつきかけているのに引っ越しなんて――と途方に暮れたところで、千秋くんが言った。
「俺のマンションに来ませんか」
唐突な申し出に、え、と戸惑う。
千秋くんは身体の向きを変えると、私に向き直った。
「うちのマンションなら、セキュリティは万全です」
「……でも、」
戸惑っているのは、そういう部分じゃない。私が千秋くんのマンションで暮らすなんて変だ。だって、それを正当化する理由がない。
「私が千秋くんのマンションで暮らすなんて、理由がないよ」
そんなのどう考えたっておかしい、と主張しようとした。
だけど、千秋くんの言葉に先を越された。
「俺の恋人になってください」
「は……、」
何を言っているの、とうろたえる。
私が眼差しを揺らめかせると、千秋くんが私の手を取った。
「俺の思いは、あの夜に伝えたはずです」
真摯な眼差しで、彼が訴える。