極甘CEOと交際0日の仮初結婚 ~一途な彼の、初恋妻になりました~
逃げるように眼差しを逸らした刹那、私に触れた彼の温みを思い出す。
何もかもがきらめく夜に、私は彼に愛された。
だけど、愛なんてもう信じない。
ただ――たったひとときの夢を見たかっただけ。
「……いっかい寝たくらいで、恋人みたいな顔をしないで」
彼の手を振り払った。立ち上がって、彼に預けていた私のバッグを引き取る。バッグの紐を肩に掛けて、ぎゅっとくちびるを噛んで、履き古したスニーカーで彼のもとを立ち去ろうとした。
愛なんて、もう二度と信じないつもりだった。
――それなのに、
「結婚してください」
真摯な声が、私に追い縋った。
思わず振り返ってしまったら、ベンチから立ち上がった彼が、一歩こちらへ踏み出した。
「俺が示せるだけの、最大の誠意を示します」
さらさらとさざめく葉擦れの音、透き通った木漏れ日の下で、彼は私に跪いた。
「紗夜香さん。俺と、結婚してください」
木漏れ日のあえかなきらめきは、三日月の儚い色合いに似ている。
私は何も答えられなかった。
言葉の代わりのように、ほろり、と眦から涙がこぼれた。
千秋くんはひどく慎重に私の手を取ると、まるで物語の王子様みたいに、私の手の甲にキスをした。