極甘CEOと交際0日の仮初結婚 ~一途な彼の、初恋妻になりました~
5分ほどで到着した区役所で――、
「俺まで呼び出されたのは、こういうわけですか」
もらったばかりの婚姻届。証人欄に氏名を記入しながら、高峰さんがやれやれといった顔をした。
ひとがまばらな戸籍課の待合スペースの一角。高峰さんが記入した婚姻届には、もう一人の証人として、運転手さん――小柴さんの氏名や住所も記入されている。
婚姻届の提出には、二人の証人のサインが必要だ。
あっという間に提出要件を満たした婚姻届。それを受け取った千秋くんは、高峰さんの万年筆で、さらさらと自分の名前を記す。横で見守る小柴さんが、心配そうな顔をしている。
千秋くんは、美しい筆跡で夫の欄を埋めた。あとは、妻の欄に私の名前を記入するだけ。その状態の婚姻届を渡されて、私は眼差しを揺らめかせる。
「あの……結婚するって、本当に?」
千秋くんの表情を窺いながら、尋ねる。
「ええ。先程プロポーズをしました」
千秋くんは、簡単に答えた。空を見上げて――「あの雲は白いよね?」「はい」と、ごく当たり前の答えを返すみたいに。
私は、自分が羽織っているジャンパーの色褪せた袖口を見やる。そうして、婚姻届を千秋くんに返す。
「簡単に、そういうこと言わないほうがいいよ」
「……簡単に?」
「だって、大企業のCEOなんでしょ?」
憤慨する気持ちで問い質せば、高峰さんがさらなる衝撃を落とす。
「正確には、久遠グループの後継者ですね。千秋は、久遠グループ総帥である久遠清典氏の嫡子です」
その説明を聞いて、眩暈がする心地だった。旧財閥系の久遠グループは、政界にすら影響を持つという日本有数の名家だ。
「財閥の御曹司なんて……。そんな、私と結婚なんて……何言ってるの」
ひとりごとみたいに、呆然と呟いた。
椅子にちょこんと座る小柴さんも、「千秋さま」と眉尻を下げている。
「じいやは、知っていただろ? 俺が、ずっと彼女を忘れられなかったこと」
千秋くんの言葉を聞いて、小柴さんが神妙な顔をする。
「いつも、俺のわがままで困らせてごめん」
小柴さんに親愛の眼差しを向けた千秋くんは、私に向き直った。