極甘CEOと交際0日の仮初結婚 ~一途な彼の、初恋妻になりました~

 久遠家のお邸を出たら、世界は静謐な夜に沈んでいた。手入れの行き届いた広い庭園で、冬の温度に髪がなびく。髪先に視線を誘われて、ふと夜空を見上げたら、そこには三日月が浮かんでいた。

「……三日月、」

 そう言ったのは、私じゃなかった。私と同じように夜空を見上げた千秋くんが、不意に取り落としたような声だった。

「紗夜香さん」

 千秋くんが私を呼ぶ。そうして――三日月の下に跪く。

「俺と、結婚してください」

 まるで、物語の中の王子様みたいに。

 たとえば、清潔な洗剤の匂い。たとえば、スパークリングワインの泡が弾ける瞬間。

 何か儚いものを思い浮かべるとき、千秋くんの記憶に結びつく。繊細な三日月もそのひとつで――儚く美しい三日月と一緒に、いつも夕やけのオレンジが呼び起こされる。

 いつか、三日月の夜に跪いて、きみがプロポーズをしてくれたとき。

 あの夜の私は、弟みたいなきみの愛を本気にしなかった。
 だけどきっと本当は、あの夜に私の運命は決まっていた。

 きみ以上に、私を愛してくれるひとはもう現れない。きみ以上に、私が愛せるひとはもう現れない。

 世界が涙の潤みに溶ける。

 私は彼の瞳を見つめて、「はい」と泣き笑いで返事をした。
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