ながされて、絆されて、ふりむいて


「ん?俺の顔なんか付いてる?」


「……あ、すみません。なんでもないです」


「それはそれで寂しいけど。もしかして、ペース気にしてる?俺たぶん結構ペース早いと思うから、あんま気にしないで」



無意識でじいっと見つめてしまっていたみたいだ。はっとしてからも、名波さんは変わらずにほのかに場を照らすような静かな温もりを表情に乗せるばかりだった。


あのひとを思考の外へと追い出す。彼のことは、凪がわたしの人生の外へと追い出してくれたから。



わたしがはちみつチーズとクラッカーに心を奪われている間に彼はもう一杯注文していたらしい。まだ半分くらいしか減っていないわたしのジョッキと対照に、新たになみなみの泡が注がれた生ビール。



「お好きなんですね」


「まあ、癖みたいなもん。社内でついてこれるの、若手だと茅野くらいしかいないんだよなー。茅野と一緒に飲んだことある?」



エレベーターで電話をしていたとき同様、突然"茅野"と馴染みのある名字を受け取って、一瞬だけわたしの世界が止まる。すぐに動き始める世界で、当たり障りのない答えを導く。



「たまに同期会はしますけど、ふたりはないです」



答え、もとい、ごまかし。


"すきなひと"の正体こそ茅野凪です、と喉で突っかかってくれた事実はさっきみたいに黄色の炭酸で奥に戻した。



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