ながされて、絆されて、ふりむいて
「そうなんだ」
それ以上は何も、聞かれなかった。
だけどその代わりにダークブラウンの垂れ目を細めて、さらに目尻を下げて、穏やかに微笑んだ。
「児玉さん」
「はい」
柔和な笑みを携えながら、改めてわたしの名字を呟いたのは紛れもなく目の前の彼だ。心なしか、声のトーンが少し下がって丁寧さが増した気がした。
はい、だなんて返事をして、続く言葉を受け取る準備をする。
「……茅野でも、すきなひと、でもなく」
目元に意識を集中させれば、主張を強める涙ぼくろに問われている感覚に陥った。
「茅野」と「すきなひと」を並べたのは、わざと?
「俺ならきっと、今みたいな幸せそうな顔だけさせてあげられるよ」
丁寧に添えられた言葉がすとんと耳に落ちる。耳は彼の言葉を拒否せず、受け入れた。
社内でも随一の人気社員だ。
今も、周りが放つ温度の高い視線が彼へと吸い込まれている。
頬杖をついて余裕を纏わせる彼のくちびるが、1ミリのズレもないくらいバランスよく弧を描いた。
──わたしはいま、どんな顔をしてる?
◻︎▫︎