ながされて、絆されて、ふりむいて
「好きな人のこと、考えてそうな顔してた」
暗いからか、それとも名波さんだからか、表情は掴めなくて読み取れない。それなのにわたしのほうは簡単に見抜かれてしまったみたいだ。
「ちょっとだけ、正解です」
「マジか、わかりやす」
「わたしの感情バレバレなの、名波さんだけですよ」
「えーそうかな」
自分としてはあまり表情や言動に出していないつもりだったけれど。単に名波さんに洞察力が高いのも、あると思う。
「……あ、」
会話に余白が生まれないように声を重ねていけば、次に投げられたボールは予想すらしていないものだった。不意に何かに気づいたように、鋭く落ちるカーブのような球を落としかけた。
「茅野だ」
名波さんから何気なくこぼれ落ちた名前は、わたしが追いかけて追いかけて、届かないひとのものだった。
まっすぐ送るその視線を辿れば、確かにこちらに向かって歩いてきていた。
「(……凪)」
思わず音にしてしまいそうだったのを必死に押し込めた。心の中に留める。
夜、いつも着ている青色のパーカーに黒のスウェットパンツ。凪だ。紛れもなく、凪がいた。