ながされて、絆されて、ふりむいて



「名波さん。それに……児玉さんも」



声が届く距離で対峙する。児玉さん、といつも通りの"ただの同期モード"を貼り付けて。


それが通常で、わたしが望んだこと。加えて今は自分から凪を突き放した。それなのに寂しさを覚えるだなんてどこまでもわがままだ。



「お疲れー、おまえも家この辺? つーか斎藤の飲みは?」


「余裕で断りました、名波さんの代わりなんて無理」


「茅野しか務まらないと思ったんだけどな」


「その茅野も無理です、勘弁してください」



会話がゆるやかに自然に、流れてゆく。シャワーを済ませて、何も施されていない漆黒の前髪が鬱陶しそうに揺れていた。


わたしの日常の一部みたいな、シャンプーの香りが風に乗って漂う。



「今日はおふたりで飲みですか、いいっすね」


「妬くなよ〜?いくら俺と飲みたいからって」


「そっちはどーでもいいっす。児玉さん、帰り気をつけて」


「……はい」



わかりやすい知らないふりに、心がざわつく。夜が色をなくすように、わたしの心も彩りが失われたみたいに冷えてゆく。


社交辞令のような気遣いが、痛くてたまらない。すべてわたしが、こうしたくせに。



< 184 / 208 >

この作品をシェア

pagetop