ながされて、絆されて、ふりむいて
「名波さん。それに……児玉さんも」
声が届く距離で対峙する。児玉さん、といつも通りの"ただの同期モード"を貼り付けて。
それが通常で、わたしが望んだこと。加えて今は自分から凪を突き放した。それなのに寂しさを覚えるだなんてどこまでもわがままだ。
「お疲れー、おまえも家この辺? つーか斎藤の飲みは?」
「余裕で断りました、名波さんの代わりなんて無理」
「茅野しか務まらないと思ったんだけどな」
「その茅野も無理です、勘弁してください」
会話がゆるやかに自然に、流れてゆく。シャワーを済ませて、何も施されていない漆黒の前髪が鬱陶しそうに揺れていた。
わたしの日常の一部みたいな、シャンプーの香りが風に乗って漂う。
「今日はおふたりで飲みですか、いいっすね」
「妬くなよ〜?いくら俺と飲みたいからって」
「そっちはどーでもいいっす。児玉さん、帰り気をつけて」
「……はい」
わかりやすい知らないふりに、心がざわつく。夜が色をなくすように、わたしの心も彩りが失われたみたいに冷えてゆく。
社交辞令のような気遣いが、痛くてたまらない。すべてわたしが、こうしたくせに。