ながされて、絆されて、ふりむいて


その瞬間、耳に届いたのは、わたしのはじめてを埋め尽くすひと。だけど今までに聞いたことのないくらい、低くて掠れた余裕のない声だった。さっき聞いたばかりの、表向きのそれと、全く違う。



香水で上書きしたシトラスではなく、柔軟剤とシャンプーが混ざった爽やかで甘やかな香りがふわり舞う。さっきより近くて、濃く、鼻腔をくすぐる。


いつもよりうんと冷たい声色のその主が、後ろからわたしを抱きしめるように引き寄せて、名波さんとの距離を離した。心臓の音がどきどきと急速に大きくなってゆく。


背中から伝わる彼の鼓動はわたしよりすこしだけ、ゆっくりだった。なのに、すごく大きく聞こえて、ひとつに合わさったみたいで。



「流されるのは、俺だけにして」


「……茅野くん、」


「違うよね、凪だよ」


「……っ、なぎ、」



焦燥と独占欲、それに、嫉妬。全てが浮かんでいる。わたしに向けてほしい、わたしだけに向けてくれたらいい、優等生なきみの黒っぽくて重たい感情。




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