ながされて、絆されて、ふりむいて



「見る目ないよね、そいつ」



教壇から静かに降りながら、座るわたしに目線を合わせて手が伸びてきた。ふわり、そんなふうに効果音がつきそうなほど優しく、このあいだのように髪に触れた。



「ね、花鈴ちゃん」



好きを投げた日も、突然先生はわたしを花鈴ちゃんと呼んだ。異性から呼ばれる"花鈴"は凪だけのものだったのに。低く甘い声が、わたしの耳に突き刺さる。



「俺と付き合わない?」



いつもお手本みたいに正しく口角を上げて笑うひと。


わたあめみたいに甘くて、葉っぱみたいに脆い軽薄な言葉にさそわれて、手を取ってしまった。



同じ温度で、同じかたちで、わたしにすきを向けてくれない茅野凪への当てつけ。


ねえ、わたし、他のひとと付き合うよ。他のひとの恋人になるの。



……すこしは、見て。こっち見て。お願い。




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