野いちご源氏物語 四八 早蕨(さわらび)
宇治(うじ)山里(やまざと)にも春の光が差しはじめたけれど、中君(なかのきみ)は少しもお心が浮き立たない。
父宮(ちちみや)様だけでなく姉君(あねぎみ)までお亡くなりになったのに、どうして私だけが新年を迎えてしまったのだろう>
むしろ悪い夢のなかにいるようにお思いになる。

大君(おおいぎみ)がお元気だったころは、ご姉妹でそれなりに楽しくお暮らしになっていたの。
季節の花や鳥をご一緒に()でたり、ちょっとした出来事や感情を和歌で伝えあったりしていらっしゃった。
もちろん心細いご生活だったけれど、おふたりで語り合われたら(なぐさ)められることも多かった。

でも今は、おもしろいことも悲しいことも誰とも共有できず、おひとりで暗闇(くらやみ)のなかにいらっしゃる。
父宮様がお亡くなりになったときは、まだ姉君がいらっしゃった。
姉君がお亡くなりになった今は、お悲しみを分かちあう人がいなくていちだんとおつらい。
恋しくて仕方なくて、
<私はどうしたらよいのだろう>
と暗闇でもがいていらっしゃる。
いっそ死んでしまいたいとお思いになるけれど、こればかりは思いどおりになるものではないから、おつらくても生きていかれるしかない。
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