完璧なルール
「ねえ、交換日記しない? 絶対に嘘はナシっていうルールで」
親友のマイに誘われたとき、私は深く考えずに「いいよ」と答えた。
渡されたのは、鍵付きの真っ赤なノート。表紙には『真実の記録』と書かれている。
マイが作ったルールは一つだけ。
「もし嘘を書いたら、罰として『その日一番大切にしていたもの』を相手に譲る。これ、絶対だよ?」
最初は楽しかった。好きな人のこと、先生の愚痴。
ある日、私は宿題を忘れたことを隠して「今日は完璧に過ごした」と嘘を書いてしまった。すると翌日、お気に入りだった限定品のシャープペンシルが、なぜかマイの筆箱に入っていた。
「あ、これ? 拾ったんだ」
マイは不敵に笑った。怖くなったけれど、ルールはルールだ。
それから、マイの様子が変わり始めた。
日記の内容はエスカレートし、彼女はわざと私が嘘をつくように誘導するようになった。
ある日のマイの日記には、こうあった。
『昨日の放課後、サトシくんと二人で帰ったでしょ?』
本当は一緒に帰ったのに、私は怖くて『そんなことないよ』と嘘を書いて、日記を返した。
その翌朝。
目が覚めると、右側の景色が真っ暗だった。
痛みはない。ただ、右目だけが何も見えないのだ。
恐怖で震えながら登校すると、教室にマイがいた。
彼女は昨日まで着けていた眼帯を外し、キラキラと輝く両目で私を見て、満足げに微笑んだ。
「おはよ。昨日の嘘、重かったね。……大切にしてたんでしょ? 『右目の視力』」
私は絶句した。
ノートのルールは、ただの「物の貸し借り」ではなかったのだ。
震える手で、その日、私は日記にこう書いた。
『もう、日記はやめたい。マイなんて、大嫌い』
翌日、私は声を失った。
マイは、かつてないほど綺麗な声で私に話しかけてきた。
「あはは、また嘘ついたでしょ? 『大嫌い』なんて。私たちが親友だってこと、君の心が一番よく知ってる。だから、その大切な『声』をもらっちゃった」
マイは私の肩を抱き寄せ、耳元で囁いた。
「次は、何を嘘つく? まだまだ私、足りないところがたくさんあるんだ」
マイの左手は、まだ不自然に動かない。
次は私の左手が、彼女のものになる番なのだろう。
完
親友のマイに誘われたとき、私は深く考えずに「いいよ」と答えた。
渡されたのは、鍵付きの真っ赤なノート。表紙には『真実の記録』と書かれている。
マイが作ったルールは一つだけ。
「もし嘘を書いたら、罰として『その日一番大切にしていたもの』を相手に譲る。これ、絶対だよ?」
最初は楽しかった。好きな人のこと、先生の愚痴。
ある日、私は宿題を忘れたことを隠して「今日は完璧に過ごした」と嘘を書いてしまった。すると翌日、お気に入りだった限定品のシャープペンシルが、なぜかマイの筆箱に入っていた。
「あ、これ? 拾ったんだ」
マイは不敵に笑った。怖くなったけれど、ルールはルールだ。
それから、マイの様子が変わり始めた。
日記の内容はエスカレートし、彼女はわざと私が嘘をつくように誘導するようになった。
ある日のマイの日記には、こうあった。
『昨日の放課後、サトシくんと二人で帰ったでしょ?』
本当は一緒に帰ったのに、私は怖くて『そんなことないよ』と嘘を書いて、日記を返した。
その翌朝。
目が覚めると、右側の景色が真っ暗だった。
痛みはない。ただ、右目だけが何も見えないのだ。
恐怖で震えながら登校すると、教室にマイがいた。
彼女は昨日まで着けていた眼帯を外し、キラキラと輝く両目で私を見て、満足げに微笑んだ。
「おはよ。昨日の嘘、重かったね。……大切にしてたんでしょ? 『右目の視力』」
私は絶句した。
ノートのルールは、ただの「物の貸し借り」ではなかったのだ。
震える手で、その日、私は日記にこう書いた。
『もう、日記はやめたい。マイなんて、大嫌い』
翌日、私は声を失った。
マイは、かつてないほど綺麗な声で私に話しかけてきた。
「あはは、また嘘ついたでしょ? 『大嫌い』なんて。私たちが親友だってこと、君の心が一番よく知ってる。だから、その大切な『声』をもらっちゃった」
マイは私の肩を抱き寄せ、耳元で囁いた。
「次は、何を嘘つく? まだまだ私、足りないところがたくさんあるんだ」
マイの左手は、まだ不自然に動かない。
次は私の左手が、彼女のものになる番なのだろう。
完


