悪女と罵られたので退場させていただきます!

4.政略結婚2

 アーリャナシル帝国のオリヴァー皇太子殿下。
 彼の立場は少々、いえ、かなり複雑なようで……。

 皇帝の孫にあたる現皇太子は、皇帝の長男(皇太子)の息子。皇太子を父に持つ皇子だったのです。幼くして父親(皇太子)を亡くし、祖父である皇帝の元で育った。母君の正妃は他国の王族。そして夫が亡くなるや否や、国に帰っている。この場合、帰されたといった方がいいのかしら?
 元々、二人は政略結婚。
 若くして夫に先立たれてしまった正妃を哀れに思った皇帝が母国に帰したと聞いた。
 その後、母国で別の男性と再婚したらしいけど……この辺はよく知らない。
 所詮は元皇太子妃。帝国を去った彼女に干渉する者は帝国にはいない。母国に帰った以上は他国人でしかないのだから。

『帝国の元皇太子妃、ましてや、現皇太子の生母である。自国の王女ということを差し引いても丁寧な扱いを受けていることは確かだろう』

『帝国との外交を考えると慎重にならざるを得ない、ということですか?』

『まあ、そうなるな』

『母国に戻さず、帝国に残ってもらった方が良かったのではありませんか?』

『味方が居ない状態ではな。亡き皇太子の正妃、というのは中々肩身が狭いものだ』

『皇帝陛下がいらっしゃるではありませんか』

『陛下を味方にしても他の皇族方に目の敵にされてしまってはな。力のない皇族など何時どうなってもおかしくはない』

 命を狙われかねない、ということでしょうね。
 母と息子。
 どちらも互いの弱点になりかねない。
 お父様の話の中で毒を盛られたこともあったとか。
 致死量ではなかったので脅しのつもりだったのでしょうけど、毒を盛られたという事実が、皇太子妃に重く圧し掛かったのは間違いないでしょう。

『いつ標的が息子になるとも限らない。それくらいなら、皇帝陛下に託した方が安全だ』

『しかし、母国に帰ることで息子の親権を放棄せねばならないのでは?』

『それは仕方がないだろう。命には代えられない。親権を皇帝陛下に譲渡することで、我が子が皇帝陛下の庇護下に入ることができる。他の皇族方とて手出しはできない』

『帝国を去ることで互いの命を守ったということですね』

『そういうことだ』

 そうして皇帝陛下は皇太子(長男)の忘れ形見を次の皇太子に据えた。
 ただし、そのことで皇族間で少々トラブルが発生したのは有名な話。
 数十名の皇族が失脚したとか。
 表面上は落ち着いて見えているだけで、裏では今も様々な謀略が行われているらしいのですが、あくまで噂なので何処まで信じて良いものか。
 お父様は「現皇太子の後釜を狙っている輩は大勢いる」と言っていたので、諦めの悪い方々は想像以上に多いことが伺えました。

 皇太子に今の今まで正妃がいなかった理由。
 もしかすると、その辺に理由があるのかもしれません。
 実際、皇帝陛下は否定しなかったことですし……。肯定しない代わりに「違う」とも言わなかったのですが。私としては、はっきりと否定しなかったのが何よりの証拠だと考えています。
 そんな過去があるせいか、皇太子の後宮には妃が多く存在していました。

 皇太子の寵愛を得て子供を産むことを期待されている妃達。
 その妃達の実家は、失脚した皇族側と結託していたところもあるらしく。未だに権力を持つ者もいるそうです。中には寸でのところで回避できた貴族も多いとか。派閥争いが水面下で行われる事態になったらしく、皇太子の後宮は寵愛争いが激しいのはそのせいだとも囁かれていました。

 今回の褒美という名の『結婚という名の後宮入り』も、実は『監視目的』だったのではないかと密かに疑っていたりします。その対象が、皇太子殿下なのか、それとも妃達の誰かなのかは分からないけれど……。
 どちらにしても、私にとっては迷惑以外の何ものでもなかったのです。



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