悪女と罵られたので退場させていただきます!
5.皇太子side
はぁ……。
どうしたものか。
また、妃が増えた。
溜息の回数が嫌でも増える。
今回の相手は、ヴァレリー公爵令嬢だ。
只の妃ではなく、正妃。
つまり、皇太子妃として後宮に入ってきた。
「殿下、皇太子妃殿下には何時、お会いになりますか?」
「あー、そうだな……今日は、やめておこう。明日はどうだ?」
「明日ですね。承知しました」
微笑んで明日のスケジュールを調整する侍従。
ここ最近ずっと「会う」「やはり今日は無理だ」の繰り返しだ。
私の意向に沿うようにスケジュールは調整される。当然、相手側に「明日、皇太子殿下がお会いになります」と伝えられる。そうして当日になって「公務で忙しいのでまたの機会になります」とされる。そんな行為が続いているのだ。侍従は、内心はどう思っていることか。いや、彼だけではない。皇太子妃も……。
勝手に決められた。
突然、「お前の正妃を決めてやった」と皇帝陛下から言われた。
事態を把握する間もなく、後宮にやってきたヴァレリー公爵令嬢。
展開の速さに頭が追い付かない。
周囲から祝いの言葉を貰っても今一つ実感がないのは、私が未だに彼女に会っていないせいだろう。
……会わなければならない。
他の妃達のように「会わない」という選択はできない相手だ。
正妃なんだ。
流石に、「会いたくない」は通らない。
それにしても、皇帝陛下も罪な事をなさる。
確か、彼女は公爵家の跡取り娘のはず。本来なら婿を迎え入れ、家を継ぐべき立場にあるはずだ。それがまさかの婚約白紙からの入内とは何とも大胆な。まぁ、彼女本人には同情するが。あのような婚約者なら白紙にして正解だろう。
しかし、彼女が私の正妃に収まる事で何かメリットがあるのだろうか?
全く分からない。そもそも私は彼女を知らなすぎるのだ。数年前に帝国貴族になった令嬢。伝え聞く内容程度しか知らない。
やり手の父親同様に、本人も才媛として名高いという事くらいだ。
「陛下はどんな思惑で彼女を私の正妃にされたのか」
そうして、翌日の昼に私は正妃のもとへと足を運んだ。
正妃の部屋は随分と落ち着いた色調だった。
壁の色彩、家具。豪華だがどこか暖かい。安らぎを覚えるとでもいうのか、そんな印象を受けた。
「皇太子殿下、お初にお目にかかります。私は、ヴァレリー公爵が息女、ブランシュ・クリスティーネと申します」
「ああ……。初めまして。私は、オリヴァーだ。会いに来るのが遅くなって申し訳ない」
「いいえ、殿下がお忙しいのは知っております。お会いできて光栄でご座います」
ニコリ微笑むヴァレリー嬢。
私よりも幾分年上だと聞いていたが、想像以上に美しい女性だった。
知性的な瞳、柔らかな表情、そして流れるような髪は結い上げられ、彼女の白いうなじが艶めかしい。
優雅に着飾った彼女の装いは、皇太子妃に相応しいものだった。
これが普通の男なら、「素晴らしい女性を正妃にできたと」と素直に喜ぶところだろう。
だが、私は違う。
無理と分かっているのに後宮に妃を増やす皇帝陛下の気持ちが私には理解できない。
女性を抱くなど……私には無理なのに……。
無理なのだ。
「私の事は、ブランシュとお呼びください。皇太子殿下」
「では、私の事もオリヴァーと。ブランシュ」
私はこの日から定期的に彼女の部屋を訪れ、彼女との時間を持つようになった。
彼女は、私に対して何の要求もしてこなかった。
他の妃達とは異なり、私に「会いたい」と癇癪を起すこともない。
私に媚びを売る事もなかった。
会話にしてもそうだ。
私に話しを合わせてくれる。
ブランシュは博識で、政治や経済にも明るい。
基本、帝国から殆ど出る事のない私と違って、彼女は国外に出る事が多かったせいだろうか。
他国の歴史や国事情にも詳しく、興味深かい話題はまったく飽きさせなかった。噂以上の才女だ。
私に不快感を与えないように適切な距離を取っている。
そういえば、彼女からはきつい香水の匂いがしない。
私がそういうのを嫌悪していることを知っているのか?知っているのかもしれないな。
ああ、こういうところにも彼女の気遣いが感じられた。
どうしたものか。
また、妃が増えた。
溜息の回数が嫌でも増える。
今回の相手は、ヴァレリー公爵令嬢だ。
只の妃ではなく、正妃。
つまり、皇太子妃として後宮に入ってきた。
「殿下、皇太子妃殿下には何時、お会いになりますか?」
「あー、そうだな……今日は、やめておこう。明日はどうだ?」
「明日ですね。承知しました」
微笑んで明日のスケジュールを調整する侍従。
ここ最近ずっと「会う」「やはり今日は無理だ」の繰り返しだ。
私の意向に沿うようにスケジュールは調整される。当然、相手側に「明日、皇太子殿下がお会いになります」と伝えられる。そうして当日になって「公務で忙しいのでまたの機会になります」とされる。そんな行為が続いているのだ。侍従は、内心はどう思っていることか。いや、彼だけではない。皇太子妃も……。
勝手に決められた。
突然、「お前の正妃を決めてやった」と皇帝陛下から言われた。
事態を把握する間もなく、後宮にやってきたヴァレリー公爵令嬢。
展開の速さに頭が追い付かない。
周囲から祝いの言葉を貰っても今一つ実感がないのは、私が未だに彼女に会っていないせいだろう。
……会わなければならない。
他の妃達のように「会わない」という選択はできない相手だ。
正妃なんだ。
流石に、「会いたくない」は通らない。
それにしても、皇帝陛下も罪な事をなさる。
確か、彼女は公爵家の跡取り娘のはず。本来なら婿を迎え入れ、家を継ぐべき立場にあるはずだ。それがまさかの婚約白紙からの入内とは何とも大胆な。まぁ、彼女本人には同情するが。あのような婚約者なら白紙にして正解だろう。
しかし、彼女が私の正妃に収まる事で何かメリットがあるのだろうか?
全く分からない。そもそも私は彼女を知らなすぎるのだ。数年前に帝国貴族になった令嬢。伝え聞く内容程度しか知らない。
やり手の父親同様に、本人も才媛として名高いという事くらいだ。
「陛下はどんな思惑で彼女を私の正妃にされたのか」
そうして、翌日の昼に私は正妃のもとへと足を運んだ。
正妃の部屋は随分と落ち着いた色調だった。
壁の色彩、家具。豪華だがどこか暖かい。安らぎを覚えるとでもいうのか、そんな印象を受けた。
「皇太子殿下、お初にお目にかかります。私は、ヴァレリー公爵が息女、ブランシュ・クリスティーネと申します」
「ああ……。初めまして。私は、オリヴァーだ。会いに来るのが遅くなって申し訳ない」
「いいえ、殿下がお忙しいのは知っております。お会いできて光栄でご座います」
ニコリ微笑むヴァレリー嬢。
私よりも幾分年上だと聞いていたが、想像以上に美しい女性だった。
知性的な瞳、柔らかな表情、そして流れるような髪は結い上げられ、彼女の白いうなじが艶めかしい。
優雅に着飾った彼女の装いは、皇太子妃に相応しいものだった。
これが普通の男なら、「素晴らしい女性を正妃にできたと」と素直に喜ぶところだろう。
だが、私は違う。
無理と分かっているのに後宮に妃を増やす皇帝陛下の気持ちが私には理解できない。
女性を抱くなど……私には無理なのに……。
無理なのだ。
「私の事は、ブランシュとお呼びください。皇太子殿下」
「では、私の事もオリヴァーと。ブランシュ」
私はこの日から定期的に彼女の部屋を訪れ、彼女との時間を持つようになった。
彼女は、私に対して何の要求もしてこなかった。
他の妃達とは異なり、私に「会いたい」と癇癪を起すこともない。
私に媚びを売る事もなかった。
会話にしてもそうだ。
私に話しを合わせてくれる。
ブランシュは博識で、政治や経済にも明るい。
基本、帝国から殆ど出る事のない私と違って、彼女は国外に出る事が多かったせいだろうか。
他国の歴史や国事情にも詳しく、興味深かい話題はまったく飽きさせなかった。噂以上の才女だ。
私に不快感を与えないように適切な距離を取っている。
そういえば、彼女からはきつい香水の匂いがしない。
私がそういうのを嫌悪していることを知っているのか?知っているのかもしれないな。
ああ、こういうところにも彼女の気遣いが感じられた。