悪女と罵られたので退場させていただきます!

6.夫との交流1

 オリヴァー皇太子を初めて拝見したとき、私は思わず息を呑んでしまいました。
 憂いを帯びた瞳に、さらさらと流れる真っ直ぐな髪。
 肌は青白く、血の気が薄いように見えました。
 常であれば不健康と受け取られるその肌の色も、皇太子殿下に限っては、目を逸らすことができないほどの色気を放っていたのです。
 そのご容貌は、静かに崩れていく美術品のようで――
 退廃的な美とは、まさに殿下のことを指すのではないかと、私は感じたのです。

 最初の対面から三日と開けずに、殿下は再び私の部屋を訪ねてくださいました。
 それは儀礼的な挨拶でも、政治的な意図でもなく――
 ただ、静かな時間を共に過ごすためだけに。

『今日も楽しかったよ、ブランシュ』

『私もですわ、オリヴァー様』

 その言葉を交わすようになったのは、二度目の訪問からでした。
 オリヴァー様は、主に異国の話を聞きたがる傾向があります。
 異国の話をしても、私が詳しく話せるのは、三国のみ。ロクサーヌ王国、アクア王国、ボルゴーヌ王国です。三国中、一国は既に亡国となっていますが……。
 あまり良い思い出のない国々ですが――
 私はオリヴァー様に請われるまま、三国の話をして差し上げました。

「ブランシュ、明日はロクサーヌ王国が滅んだ時の話を聞きたいのだが、良いだろうか?」

 言いにくそうに、それでいて好奇心を隠せないオリヴァー様。
 私の元祖国ということもあってか、若干、後ろめたそうなご様子です。

「はい、オリヴァー様」

「本当に良いのかい?」

「勿論です。国が如何にして滅んだのかを知るのにロクサーヌ王国ほど打ってつけの国はありませんから。私の元祖国だからといって遠慮は不要です」

 私がそう答えると、オリヴァー様は安心したように、ほっと息を吐かれました。
 きっと、私が断ると思っていたのでしょう。
 普通は祖国の崩壊を話すのは気が進まないでしょうが、私は逆です。喜々として語って差し上げたいくらいです。
 彼らの自業自得の顛末。
 私にとっては「ざまぁ」以外の何物でもありませんから。
 とはいえ、嘗ての祖国を表立って悪し様に言う事はできません。
 そんなことをすれば、私が血も涙もない人間に思われますからね。何事もイメージというのは大事です。
 オリヴァー様と良好な関係を築いていけそうな感じですからね。

「それでは、昼食後、こちらにいらしてくださいませ。明日は午前中までのお仕事だと伺っています。美味しいお茶をご用意して待ってますわ」

「ありがとう、ブランシュ」

 オリヴァー様は、はにかんでお礼を言われました。

「それでは、また明日」

「はい。明日、お待ちしておりますわ」

 オリヴァー様が帰られた後、私は輸入品のお茶を淹れました。
 ロクサーヌ王国にいた頃は、お茶を自分から淹れるなどありえないことでした。
 生粋の公爵令嬢だったこともありますが、例え、私が好奇心でソレをすれば周囲が止めに入ったことは容易に想像が付きます。

『未来の王妃がそのような事をしてはなりません』とか。
『そのようなことは、メイドのすることです。貴女様は王妃となられる貴き女性なのです』とか。

 今思い返しても何かと口うるさかったですね。主に王家とその周囲の貴族が。

「あの国にいたなら緑茶を飲むことも出来なかったでしょうね」



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