悪女と罵られたので退場させていただきます!

7.夫との交流2

 帝国でも珍しい緑茶。
 東方の国で栽培されているというソレは、私のお気に入りです。
 元の世界を思い出させるお茶。
 見た目も味も、まんま「緑茶」だったと知った時は感動で手が震えたものです。
 ただ問題は、「緑茶」はあってもそれを入れる急須と湯呑がなかったこと。
「ない」というよりも、「売れないから仕入していない」と言った方が正しいでしょう。

「緑茶をティーポットやカップで飲むのはちょっとね……」

 こう、違和感満載でした。
 他の帝国人はそうやって飲むのでしょうが、私には無理でした。
 やっぱり、緑茶を飲むには急須と湯呑が一番です。
 わざわざ、陶工に依頼して作ってもらった甲斐があったというもの。

「あら?茶柱が立ったわ」

 湯呑を持ち上げて中を覗き込むと、ゆらゆらと揺れる水面の上に立つ一本の茶柱。
 幸運を運ぶと言われるソレ。
 先行きが良いということでしょう。
 私は、湯呑に口を付け、緑茶を味わいました。

「美味しい」

 二口、三口と飲み進め、ほっと一息を吐きます。
 緑茶は気分を落ち着ける効果があると聞いた事がありますが、本当ですね。
 オリヴァー様が私の部屋に来られるようになってから、既に一ヶ月が経ちました。
 その間、大分、オリヴァー様からの警戒心は薄れたのではないかと思います。

「後は、物理的な距離かしらね」

 オリヴァー様との会話は楽しいのですが、如何せん、距離が遠いのです。
 長テーブルの端と端。
 一ヶ月経っても、その距離は変わりませんでした。
 オリヴァー様付きの侍従から事前に説明を受けた時は、冗談かと思ったくらいです。


『このテーブルを使うのですか?』

『はい』

 会話をするのに長テーブルを使用するなど聞いた事がありません。
 それも食事用のテーブルより長いなんて……。いえ、それよりも――

『椅子の配置が端同士……、これは一体?』

『オリヴァー様は人付き合いが苦手な方です。また、お立場から気安く人と会話もできません。どうか、ご配慮くださいませ』

 驚き過ぎて言葉も出ませんでした。
 この距離で会話をしろと?
 え?本気ですか?冗談ではなく?

『こ、この距離では会話は難しいと思われますわ。それに、これでは殿下の顔が見えにくいわ。ああ、これは何も私の目が悪いという訳ではなく、ただでさえ端同士に座るというのに、そのテーブルの真ん中に幾つも生けた花を飾っては、殿下のお顔を拝見することすらできないのでは……』

『これは、殿下からのご要望です。全ては殿下にお会いするためのセッティングなのです』

『は?』

 呆然とする私に、侍従は容赦なく告げてきました。

『皇太子殿下は見知らぬ人とお話をするのが得意ではございません。中でも異性とは殊更です。これでも精一杯譲歩なさったのです。妃殿下、ご理解ください』

 何なのでしょうか?それは!
 皇太子殿下は人嫌いのコミュ障か何かですか!?

『……分かりました。殿下のご意向であれば、致し方ありません』

 そうして始まった皇太子殿下との交流。
 最初の挨拶は顔を確認できる距離でしたが、殿下は早々に長テーブルの端へと移動してしまいました。
 私もその後を追うように席に移動したのです。
 挨拶は普通でした。
 ですが、侍従からの事前情報がアレでしたので、殿下との会話は覚悟していたのです。
 しかし、意外な事に、殿下との会話は弾みました。
 これにはビックリです。てっきり、口を閉ざしてしまわれるのかと思いきや、意外と饒舌でいらっしゃったのです。
 頭の回転が速く理解力のある会話は、とても楽しいものでした。
 まぁ、これは互いの顔がテーブルの真ん中に占拠している数個の花瓶によって、見えなかったからこその副産物だと知ったのは、三度目の対面の時だったのですが……。


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