悪女と罵られたので退場させていただきます!

20.オーファンラスター公爵side

「な、なんてことだ……」

 私は送られてきた手紙の内容に絶句した。
 手紙と共に送られた書類の数々を何度も確信した。

 何かの間違いではないのか、と。
 だが、何度見ても間違いはない。

「あああ!なんてことだ!!」

 帝国のヴァレリー公爵家から婚約の白紙を求められた。
 いや、これは有無を言わさない「婚約を最初からなかったこと」にされたのだ。
 手紙では「白紙にしたい」と書かれているが、婚約無効の書類が送られた時点で、既に婚約はなかったことにされてるはずだ。
 ご丁寧に国王陛下のサイン入り。
 オーファンラスター公爵家が何を言ったところで無駄だ。

「何故だ!何故なんだ!!」

 私は怒りで手紙を握りつぶした。

 折角の縁組だというのに!
 これ以上の相手は望めないというのに!
 フリッドは何をしていたんだ!

 …………いや。本当は分っている。
 王女殿下の件が関係してることは。

 嘗て帝国大使に言われた言葉が頭をよぎる。

『ご子息は、自国の王女殿下と懇意の間柄だとか。随分と噂になっておりますぞ』

『我がオーファンラスター公爵家は王家の信頼も厚い故でしょう』

『おや。ならば噂は、所詮“噂”ということですな』

『ええ。噂は噂です』

『ですが、火のない所に煙は立たぬとも申しますぞ』

『社交界での噂は、火のない所からでも立ちあがるもの。いえ、立ちあげる、とでもいいましょうか。オーファンラスター公爵家を妬む者達が勝手に流してるだけですので、ご心配には及びません』

『それはそれは。()()()()()()ですな』

 その含みのある言い様に、私は余裕の笑みで答えた。
 息子を信じていたからだ。
 バカなことはしないと。
 おかしな噂が流れていることは知っていたが、そういう馬鹿げた噂は社交界では日常茶飯事だ。
 事実無根であるのだから気にする必要はないと。

 帝国の公爵令嬢と息子が婚約し、これからのオーファンラスター公爵家は安泰だと。

 そう思っていた。
 そう信じていた。

 ヴァレリー公爵家と縁組が出来れば、帝国の後ろ盾を得られる。
 帝国との貿易が増えれば領地が潤う。
 この国でのオーファンラスター公爵家の地位は保証されたも同然。
 我が家にとって、いいこと尽くめの縁組だったのだ。

 そのはずが……。

「何故こうなった!?何故なんだ!」

 フリッドに関するおかしな噂が出た瞬間に火消しに走ればよかったのか?
 それとも王女との交流を諫めれば何かが違っていたのだろうか。

「どうしてだ……」

 私の呟きに答えるものは誰もいない。
 夢なら覚めて欲しい。
 だが、残念ながら夢ではない。
 そうして悪夢というものは終わりがないということを、私は知る。

 
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