悪女と罵られたので退場させていただきます!

26.帝国大使side

「発たれたか」

 今しがた、ヴァレリー公爵令嬢がボルゴーヌ王国から去った。
 アーリャナシル帝国に帰還するのだ。
 本来ならば、私も見送りに行くはずだったのだが。
 ボルゴーヌ王国側が妙な動きをしないとも限らない。

「今のところは、何も動きはありません」

「そうか」

 部下の報告に、私は頷く。
 ヴァレリー公爵令嬢の婚約白紙と共に暴かれたボルゴーヌ王家の醜聞。
 王女の醜聞は、今や国内外で知らぬ者はいない有り様だ。
 そのせいで、ボルゴーヌ王国の貴族達は上を下への大騒ぎだ。

 前々から噂になっていた。
 社交界で持ち切りだった話だろうに。
 何を今更慌てるのか理解に苦しむ。

 それともアレか?
 王侯貴族なら些細な醜聞と受け止めていたのか?
 もみ消してしまえば済むことだと?
 権力で何とでもなると?
 本気で思っているのなら頭がどうかしている。

 初期の段階でもみ消しができなかった時点でボルゴーヌ王国は、三流国だ。

 ヴァレリー公爵令嬢が去ってから一週間後、王女と近しかった者達が軒並み失脚した。

「逃げのびれなかったか」

「はい。王女殿下と特別親しかった関係者の大半が牢屋送りとなりました」

「その割には静かだな」

「極秘裏に捕まえたようです」

「各家の様子は?」

「沈黙を貫いてるようで……」

「そうか。だが、まだ油断はできん」

「はい」

 ボルゴーヌ王国の貴族達は沈黙している。
 だが、水面下では動いているはずだ。
 もっとも中には我が子を切り捨てた親もいるだろうが。
 牢屋に連行された者達は王女と関係を持った子息達だろう。

「今、牢屋に入っている子息のうちの誰かが王女の子の父親か」

「恐らくは」

「このままオーファンラスター公爵子息の子供だと言い切ってしまえば、全て丸く収まったのだが。さすがの王家も国際裁判に発展させるのは躊躇したか。いや、躊躇せざるを得なかったと言うべきか」

「そのようです。オーファンラスター公爵は王家を相手に裁判を起こすと息巻いていたようです」

「当然と言えば、当然だな。公爵家の血を引かない子供を引き取らされかねない。そんなことになったならば、この国の国王の思うつぼだと考えたのだろう」

「それでは」

「ああ。間違いなく、王女の胎の子の父親はオーファンラスター公爵子息ではない」

 だからこそ、というべきか。
 貴族子息達の大量連行。
 本物の父親に証言をさせないためか。
 あるいは口封じか。
 どちらにしても禄でもない。

「素直に自白する者などいないだろうに」

「同感です」

「国王の狙いはオーファンラスター公爵の訴えを取り下げさせることだろう」

「応じるとは思えません」

「まったくだ」

 オーファンラスター公爵が素直に応じるような性格ならば、こんな暴挙にはでなかっただろう。

「このまま大人しく引き下がる国王陛下ではありません」

「ああ、我慢比べだ」

 厄介な話だ。
 オーファンラスター公爵子息もある意味でしぶとかった。
 独房で、あろうことか「私はヴァレリー公爵令嬢の婚約者だ!」「帝国が黙っていない」と、喚き散らしているとか。看守は全く相手にしていなかったようだが。
 婚約当初ならいざ知らず、この数ヶ月間は婚約者の義務を果たさなかった愚か者だ。
 茶会やパーティーでのエスコートを遠回しに拒否した男が婚約者面をするなど万死に値する。王女に侍っておきながら「浮気ではない」と主張する面の厚さ。
 そんな非常識が我が帝国に通じるはずがないだろう。

「だが、この婚約騒動と王女の醜聞のお陰で本来の目的は達成できた」

 これもヴァレリー公爵令嬢が上手く立ち回ってくれたおかげだ。
 彼女が居なければボルゴーヌ王妃の死の真相にはたどり着けなかっただろう。
 

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