月のうさぎと地上の雨男
 水族館を最後まで見て、二人は外に出た。

 夕日が眩しく、渡は目を細めた。潮風が穏やかに凪の髪を揺らしている。


「晴れてると気持ちいいな」

「雨でもいいよ。傘差してさ、その中で渡くんと二人きりになれるから」

「今は、月が見たいな」

「任せて。あと、一時間もすれば上がってくるから。そしたらとびきりきれいな月を見せてあげる」


 渡は凪の手を引いて浜辺を歩いた。

 夕日はゆっくりと水平線へ沈んでいき、代わりに月が昇った。

 凪は月で見えた地球の話や、月の天気や気候の話をしていて、渡は相槌を打ちながら耳を傾けた。

 今はただ、凪の声を聞いていたかったのだ。


「そろそろかな」


 ふと凪が空を見上げた。

 太陽はすっかり落ちて、辺りは暗い。

 空に昇る月だけが、ぼんやりと明るかった。


「渡くん。この先も、ずっと私の隣にいてね」

「もちろん。死ぬまで凪と一緒に月を見るよ」

「雨が降ったら二人で傘に隠れよう」

「二人しか入れないくらいの傘を用意しておく」

「あなたに会えてよかった」

「俺のセリフだ。君に会えてよかった」


 渡が視線を月から凪に移した。

 凪は笑顔で渡を見上げていた。

 どちらからともなく顔を寄せ、一瞬触れてから離れた。

 しばらく月を眺めてから、黙ったまま歩き出した。




 車に戻り、二人は手をつないだまま、言葉少なに夜景を眺めていた。

 マンションのロータリーで車が止まると、凪が渡の手を強く握った。


「渡くん、明日の午後って空いてる?」

「本家に顔を出そうと思ってたけど、何?」

「まだ先だけど、私も渡くんが通ってる大学に内部進学するから、見学に行きたいんだ。学生証を見せたら入れてくれるでしょ?」

「案内は喜んでするけど、大学は二学期まであと半月以上あるよ」

「そうなんだ?」

「また大学が始まったら教えるから、一緒に見て回ろう。凪と一年間だけ在学期間が被るんだよね。楽しみにしてる」


 渡は凪の手を握り返してから、そっと手放し車から降りた。


「凪、またね。明日は無理だけど、後で迎えに行ける日と大学の予定を確認して連絡する。俺から連絡するから、待ってて」

「わかった。待ってる」


 手を振って、渡は車を見送った。

 渡はもう諦めないし、身を引かない。自分で月を掴むと決めたからだ。
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