月のうさぎと地上の雨男
 凪が車から降りて、渡の手を引いた。

 渡は指を絡めて彼女の後に続く。

 二人は、初めて会ったときに来た海の近くの水族館へ向かった。


「わ、相変わらずマンタは大きいねえ」

「前に見たときより、育ってるような気がする」


 以前と同じように、水槽の間をゆっくり歩いて回った。

 凪が歓声を上げるたびに、渡は頷きながら彼女に寄り添う。


「渡くん、今日はなんだか甘えん坊だね」

「うん。寂しかったから」

「そうなの?」

「当たり前だろ」

「そっかあ」


 凪は嬉しそうに微笑んで渡にもたれかかった。

 水槽の中では、タツノオトシゴがヒレを羽ばたかせるようにして浮いていた。


「渡くんはあまり会いたいとか寂しいとか言わないから」

「それで不安にさせてた? 凪が頑張ってるの分かってたからさ。ワガママ言いたくなかったんだよ。あと、かっこつけてた」

「そんなことしなくてもかっこいいのに」


 渡は凪の手を離し、その肩を抱き寄せた。

 細くて華奢で、気をつけないと壊しそうだ。


「凪に会えなくて寂しかった。連絡もつかないし、会いたくてどうにかなりそうだったんだ」

「私も会いたかったよ、渡くん。ね、冬休みは月においでよ」

「えっ」


 凪がニコッと笑って渡を見上げた。


「緑化に向けての視察とか理由つけてさ。日本が月の緑化にどう手をつけるかは、注目されてるからね。雨水(うすい)の人たちが言って前面に立って話をしてくれると、説得力が出る」

「……なるほど。父と相談してみるよ」


 確かに、そういう手もあるかもしれない。

 地上で月を見て泣くくらいなら、自分から会いに行ってしまえばいいのだ。

 渡はぼんやりと(とおる)への引き継ぎや、美佳(みか)園佳(そのか)の予定を思い浮かべた。

 今から、冬の予定は抑えられるだろうか。(ゆずる)歌帆(かほ)とで顔を出して、他国の月の関係者に納得してもらえるだろうか。

 そんな渡を凪が見上げて手を引いた。


「渡くん、タコだよ。あのね、前に来たときに買ってもらった靴下とスニーカー、取ってあるんだ」

「そうなんだ?」

「うん。蟹沢に靴の洗い方を教わって、自分で洗って飾ってある」

「もっとちゃんとした靴、送るよ?」

「ううん、あれがいいの」


 微笑む凪を見て、渡は我慢できずに抱きしめた。


「次、見に行こう渡くん」

「うん、行こう」


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