月のうさぎと地上の雨男
 そう車から降りてきたのは猿渡で、後部座席のドアを開けてくれた。


「ありがとうございます。……あの、監視とかしてましたか?」

「……? ああ、先ほどのお嬢様の発言ですね。不安にさせてしまい、申し訳ございません。雨水様個人の監視を行っていたわけではなく、お嬢様の学校の出入りのタイミングで周辺を伺っていた時に雨水様をお見かけしましたのでお嬢様にお伝えしました」

「そうでしたか。この際、監視でも構わないのですが、教えておいてもらえればと思いまして」

「さすがの月詠家でも、雨水家の方に監視をつけると角が立ちますから、しませんよ」


 苦笑する猿渡に、渡は頷いて車に乗った。

 車内では満面の笑みの凪が待っている。


「渡くん、デートしよう」

「いいよ。どこ行くの?」

「それを決めようと思って、迎えに来たんだ」


 猿渡が運転席に乗り込み、車が静かに走り出した。

 凪はスマホを取り出し、渡に向けた。


「ここ、行ってみたいんだけどどうかな」


 渡が覗き込むと屋内遊園地だった。3Dシアターや、謎解き、コースターもあるらしい。


「クラスの子に自慢されたの。彼氏と行ったんだって」

「いいよ、行こう。俺も行ったことないんだ」

「やったあ。楽しみにしてる」


 嬉しそうにする凪は、渡には普通の女子高生にしか見えない。

 けれど、この子は月のお姫様で、いつかは目の前からいなくなる。


 ……それはちょっと嫌だなあ。


 渡は胸の奥のもやもやを飲み込み、凪のデートプランに耳を傾けた。
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