月のうさぎと地上の雨男
 ピクニックの約束をした夕方。渡がマンションのロータリーに降りると、そこにはキャンピングカーが停まっていた。


「渡くん!」


 車の後部座席の窓から、凪が顔を出した。


「乗って乗って!」

「う、うん」


 まさかキャンピングカーで来るとは思わず、渡はおっかなびっくり猿渡(さるわたり)が開けてくれたドアから乗り込んだ。

 助手席に座る蟹沢(かにさわ)に、用意してきた飲み物とデザートを渡して奥へと進む。

 車内は渡の想像以上に広々としていて、ミニキッチンとテーブル、ベンチまであった。

 ベンチの窓側では、凪がニコニコと渡を待ち構えている。


「渡くん、こんばんは! ここ座ってね」

「こんばんは。なんかすごいね」

「そう? 今日は山登りするから、せっかくだしゆっくりできる車にしたんだ」


 これが金持ちの発想……!

 自身もかなりの良家育ちだと渡は分かってはいるが、レベルが違う。

 渡がシートベルトを締めると車が動き出し、同時に凪がもたれかかってきた。


「着くまでちょっとかかるから、のんびりしようね」

「うん……俺、キャンピングカーって初めてだ」

「そうなの?」

「うちの家族、インドアだからね」


 なにしろ全員雨男雨女だからさ、と渡は苦笑する。

 凪はやはり楽しそうに渡の手を握った。


「じゃあ、一緒に楽しもう」

「ありがとう、凪」

「私が行きたいって言ったんだから」

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