月のうさぎと地上の雨男
 頭を下げて、渡と雫は下がる。

 二人でリビングに向かうと、従姉弟の園佳(そのか)佳貴(よしたか)が待っていた。


「園佳姉さん、佳貴兄さん、ご無沙汰してます」

「久しぶり。たまには顔を出しなさいよ」

「大学が思ったよりも忙しくてさ」

「渡、佳貴くんとも久しぶりなの?」


 雫が首を傾げた。

 渡と佳貴は二歳違いで、同じ大学に通っているのだ。


「学年が二つ違うと意外と会わないんだよ」


 佳貴が肩をすくめた。


「僕は必修の科目はもう全部終わらせてるしね」

「そうそう、一年は必修科目が多くて、三年が取るような選択科目を取る余裕がないよ」


 渡も頷いて佳貴と「ねー」と言い合う。

 そのまま渡は、佳貴に二年次で使う教科書を持っていないか確認し、できればノートも貸してほしいと頼む。


「いいけど、でも何科目か先生変わっちゃってるんだよな」

「えっ、そうなの……」

「でもあるやつは貸してやるよ。あとお前彼女できたんだろ? 写真見せろ」

「やだよ」

「じゃあ教科書上げない」

「ひどい!」

「あ、このプリクラ? ……え、この子」


 渡がスマホケースに挟んでいた、凪と撮ったプリクラを佳貴が目敏く見つけた。

 目を丸くして固まる。


「かわいいよね……って、佳貴くん?」

「どうしたの、佳貴兄さん」


 雫と園佳も佳貴の様子に怪訝そうな顔をする。

 佳貴は眉間にしわを寄せ、渡を睨んだ。


「この子、俺の婚約者だけど」

「婚約者? 佳貴兄さんの?」

「渡、どういうつもりだよ」

「知らないよ。伯母さんだってそんなこと言ってなかったし」

「はあ?」


 佳貴が険しい顔のままリビングから出て行った。

 残された三人も、慌てて後を追った。

 渡たちが客間まで戻ると、ちょうど廊下で譲と出会う。


「なんだ、そんなに慌てて」

「や、なんか佳貴兄さんが」


 言いかけたところで、部屋の中から佳貴の怒声が聞こえた。


「どういうことだよ!」

「だから、正式なものではなかったんだ」

「なんだよそれ!」


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