月のうさぎと地上の雨男
 そして大学が冬休みに入ってから、渡も凪も忙しくて会えずにいた。

 渡は『できたばかりの彼女とクリスマスデート♡』を夢見なかったわけではない。

 でも、それが難しいこともわかっていたから、言わずに飲み込んでいただけだ。


 一応クリスマス当日に凪の顔を見ることはできた。

 月詠婦人と共に挨拶にいそしむ姿を、遠くからちらりと見ただけだった。

 なんとか猿渡(さるわたり)を捕まえてクリスマスプレゼントを渡すことができ、その日の晩には凪からいつもより長い電話がかかってきた。

 大晦日になると、ようやく譲の仕事が落ち着いて、渡は歌帆(かほ)(しずく)と共に雨水(うすい)の本家へと顔を出した。


「ご無沙汰しております、伯母上」


 渡は雫と歌帆と共に客間で正座し、伯母の美佳(みか)に頭を下げた。譲は急遽仕事の連絡が入り、遅れている。

 美佳は和装で背筋をまっすぐに伸ばして三人を見据えた。


「久しいね、渡さん、雫さん。お変わりはなく?」

「はい、おかげさまで。伯母上もお変わりなさそうでなによりです」

「誰かさんのせいで一時期は胃が痛んでいたが、最近はそうでもないよ」

「す、すみません……」


 にこっと微笑む美佳に、渡は思わず背筋を伸ばした。


「かまわないよ。月詠婦人とはご挨拶させていただいているから。……歌帆さんもね」

「は?」


 渡が振り返ると、歌帆が「あ、言ってなかったっけ?」と笑っていた。


「わたくしと歌帆さんは実はママ友なんだが、同世代の子供がいるということで、時折月詠婦人ともご一緒させていただいているんだよ。その際にね」

「母さん……言ってよ」

「知りたかった? 母さんと彼女のお母さんがママ友だったって」

「や……それはどうだろう?」

「ちなみに私は知ってたよ」


 雫が口を挟み、渡は愕然とした。

 いつの間にか、自分の知らないところで包囲されていたらしい。


「悠さんと綾さんについても、美凪子(みなこ)さんが説得中だそうだ。ただお二人とも凪さんのことが大事で仕方ないから、こう……視野が狭まってしまっているそうだ」

「はい。僕は大丈夫です。ただそのことを彼女が気にしているので、どうにかできればとは思いますが」

「今すぐは難しくても、きちんと誠意を持って話せば伝わる。精進しなさい」

「はい、ありがとうございます伯母上」

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