月のうさぎと地上の雨男
 高校の前につくと、猿渡(さるわたり)が車のドアを開けてくれた。


「こんにちは。いい雨だね、渡くん」

「そうかなあ」

「そうだよ。いい匂いがして安心する。……チョコ、受け取ってもらえる?」

「もちろん。ありがとう凪」


 渡は凪が差し出す紙袋を受け取った。

 小さな紙袋には、丁寧にラッピングされた箱が収まっていた。


(あや)と作ったの。味見したから、たぶん大丈夫」

「妹さんと?」


 凪の妹と弟は、以前は渡を強く警戒していたはずだ。

 しかし凪は苦笑した。


「ママと私が怒ったからね。(ゆう)はまだダメだけど、綾は馴れ初めを話したらすっかり渡くんのこと気に入っちゃって。女の子だから、そういう恋バナが好きなんだよ」

「そういうものなんだ。とにかくありがとう。大事に食べるね」


 渡が微笑むと、凪がそわそわと渡の手を取った。


「……あの、今日は他にチョコもらった?」

「ううん。一つももらってない。母と妹からももらってない」

「そうなんだ? それはもらえばいいのに」

「もらったらもらったで、お返しの要求がうるさいからね、二人とも」

「ふふ、雨水さんの皆さんって、本当に仲がいいよね」

「そうかな。ところで凪、ホワイトデーは何がいい?」

「わ、どうしようかな……」


 他愛もない話をして、マンションのロータリーで渡は凪を見送った。

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